間章
第150話 16歳になりまして(1)
「ヒューバート殿下、お誕生日と体調の回復お喜び申し上げます」
「殿下、この度はおめでとうございます。今年もご健勝であらさせられますようお祈り申し上げます」
「ヒューバート殿下、お誕生日おめでとうございます。体調を崩されたと聞いた時は心の臓が止まる思いでございました」
「ありがとう。みなに心配をかけて申し訳ない」
……かったる。
いやいや、思っていても顔には出しませんよ。
仮にも王太子ですから?
でも、心底クソ地味だった幼少期の誕生日パーティーが懐かしい。
今日は俺の16歳の誕生日なのだが、規模がアホみたいにでかくなってしまったのだ。
ミドレ公国の大公閣下と大公妃、複数の高位貴族も招かれ、国交が回復したのだと目に見える平和は嬉しいのだけれど。
「ヒューバート殿下、その……我々は神々にご挨拶は……」
「えーと、ラウトは絶対にやめておいた方がいい、かな。人が多くて機嫌がものすごく悪い」
「か、かしこまりました」
今回パーティー会場には仕掛けがある。
玉座の後ろに神輿を作り、その上に守護神として祀ることになったディアスとラウトに座ってもらうことにしたのだ。
なお、二人ともガチで嫌がった。
そこをなんとかお願いしたのである。
ラウトには絶対話しかけさせないことを約束して。
ちなみにディアスはもうすでにホールに降りて、数人の医療関係に携わる貴族に話しかけている。
ディアスから話しかけているので、俺からはノータッチ。
あとは元々騎士団内に俺と一緒にいることが多かった者は、デュラハン時代から知り合いなのでそういう者とは気兼ねなく会話している。
ディアスは元々アスメジスア基国の貴族で、こういうパーティーは経験があるらしい。
スマートに対応していてめっちゃカッコいい。
ラウトの代わりに貴族や騎士の相手をしてくれていて、助かっております。
「やぁやぁ! ヒューバート殿下! 16歳のお誕生日おめでとうございます!」
「あ、えーーーと……」
「ディロック・レバー聖殿真代表最高顧問長です」
「あ、ありがとう、ディロック・レバー聖殿真代表最高顧問長」
「おお、我が名を覚えていてくださったとは光栄の至りですな!」
後ろに控えていてくれたランディのおかげで乗り越えられたが、聖殿の今の一番偉い役職かな?
もう覚える気がないとはいえ、未だにトップの奪い合いで役職名が更新されているとは恐れ入る。
父上もいい加減聖殿に関しては手を入れると言っていたけれど、大丈夫かなこれ。
ディアスはともかくラウトはこの手のタイプめちゃくちゃ嫌いそう。
声はでかいし身振り手振りも大袈裟。
俺の側にいた挨拶待ちの貴族の大半が、ちょっと引き気味。
「時に殿下、我々聖殿は今後国の守護神となった神々をお祀りするとお聞きしておりますが……ぜひぜひ聖殿の真代表最高顧問長たる私めに、その神々を紹介願えませんかな?」
「ん?」
「今後お仕えする神々にご挨拶もできませんとはいやはや、おかしな話ではありませんか! ぜひ私を神々にご紹介ください」
「え」
ど、どの立場から言ってんの……この人。
もしかしてまだ聖殿には王家に意見する力がある、とか、思ってる感じ?
俺に、神々を紹介しろって、それここで言うことか?
俺を見下ろす目も完全に「断れないだろう?」と言わんばかり。
ちょっと呆れてしまった。
聖殿は現在、完全に王家の“下”だ。
しかし、長い間王家の力を削いできた聖殿に所属していた者からすれば、王家の力が急速に上回り、意識を改革する時間が足りなかったのだろう。
まだ自分は王家を言いなりにできると思っている。
うーん、ちょっと可哀想だな。
時代についていけないおっさんって、前世のSNSとかにもたくさんいた。
しかも周りの目がどれほど冷ややかに自分を見ているのか、それにも気づかない。
典型的な勘違いおじさんぶりを発揮しているのだ。
ランディが後ろで目を細めている気配がするし、俺がなんとか丸め込むしかないか。
「ええと、おそらく事前に通告が行っていると思うが、守護神たちは“顔見せ”のみ行う。特に守護神ラウトは人間嫌いな神だ。今日も顔見せだけという約束で来ていただいている」
「殿下、私は聖殿の真代表最高顧問長ですぞ? これから聖殿で崇める神にご挨拶ができないのは困ります。どのように祀るのが適切なのか、お聞きしたいのです!」
「いや……確かに聖殿で祀ることは決まっているが、守護神たちは自我のある生き神だ。聖殿にも民にも、ただ日々の感謝を捧げてくれさえすればいい」
いや、マジで。
ラウトに至っては余計なことしたら殺されるよ。マジで。
事前に「不愉快だったら殺す」って言われてるから。
ラウトが苛烈な性格の神だということは、周知しているのだが……このおっさんの耳にだけ入ってないんだろうか?
「いえいえ、それだけでは足りますまい! ぜひ神々にはこの私のことを頼りにしていただきたいのです! ええ、ですからぜひにご挨拶を!」
そう言って聖殿真代表最高顧問長殿は、玉座の奥に座るラウトを見上げる。
自殺志願者なの?
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