第111話 ミドレ公国(6)

 

「一度ルオートニスに帰って、ジェラルドとラウトに食糧を運んでもらう必要があるな」

「そこまでの支援をなさるのですか?」

「貴重な技術者にまで死なれては敵わない。石晶巨兵クォーツドールをもっと効率的に使えるようにするために、多くの技術者の技術と発想がほしい。まだまだ改良の余地はあるし、燃費と操作性の問題は急務だ」

「……御意に」


 ランディが俺の意図を汲んでくれて助かった。

 大公たちの前で、俺たちが石晶巨兵クォーツドールの共同開発を望んでいる理由を聞かせることができたから。

 それを聞いて大公がゆっくり頷いて、後ろに立っている使用人に手を軽く挙げる。

 心当たりのある技術者を呼んでくれるのだろう。


 それからラウトが[空間倉庫]で持ってきた食糧の一部を、城の門前に下ろす。

 この国でも[空間倉庫]はチートっぽくて、めちゃくちゃ騒ついたようだ。

 便利だよな、[空間倉庫]。

 って言っても[空間倉庫]は無属性魔法。

 魔力消費が激しいから、魔力量計測器をぶっ壊すレベルの人間以外は使えない。

 ジェラルドの代わりにラウトを連れてきたのは、[空間倉庫]を使ってもなんら問題ないから。

 案の定ケロッとした顔で現れた。


「お疲れ様。どうだった?」

「はい、ほとんどの区画を回ることができました。ですが、町の皆さんは飢えで疲弊しておられて……」

「まあ、こればっかりは大公様にもどうすることもできないからな」


 この国の民もそれはわかっているから、諦めてしまったのだろう。

 それにしても、短時間にほぼ全部の区画を回れたなんてどうやって……。


「?」

「ラウト、いっぱい頑張ってレナを運んでくれたのか?」

「あ! うん! そうだよ! [空間移動]でぱぱーって!」

「……そうかぁ、さすがだなぁ」


 なにその魔法。

 聞いたことない……。

 ジェラルドが考えたの?って聞いたら元気よく「うん、そうだよ! 新魔法! 魔力ドカ食いするから難しいよ!」って言うしね。

 そんな気はしてたよ。

 俺でも頑張れば使えそうなのは[空間倉庫]だけど、その新魔法は絶対魔力量やばそう。


「ラウトは一緒に来てくれ。パティとマリヤはフォーディと城の者たちと城門前で炊き出しをしてくれないか? 許可は取っておくから」

「炊き出し……わかりました!」

「できるだけ消化に良くて大量に作れる、麦粥で頼む。野菜は小さく少なめに。多分明日もやることになるから」

「わかりました」


 察してくれたのか、マリヤは少し微笑んで頷いてくれた。

 騎士団長ロイドさんが、俺の側に四六時中ついているけどまあ、別に構わない。

 炊き出しの件も、ロイドさんがすぐに部下に手伝いを指示してくれたし。

 水はあるようだし、麦粥なら作れるだろう。

 しかし、食糧の備蓄を使うなら本当にあまり長居ができないな。

 俺たちだけで二食食べれば一ヶ月分、という量しか持ってきていないから。

 ミドレにいられるのはせいぜい一週間か。

 次に来る時はジェラルドも連れてきて、サルヴェイションと光炎コウエン地尖チセンにも食糧を積んでこないと。

 いくら王都のみといっても、数万人の人間が住んでいるはずだし。

 思ったよりやること多いな。


「ヒューバート王子殿下、食事会の準備が整いました」

「わかった。マリヤたちも合間を見て、食事と休息はきちんと摂ってくれ。ラウトはお腹空いてないか?」

「さっきパティお姉ちゃんにサンドイッチもらったから大丈夫〜」

「後ろに立っててもらいたいけど、疲れたら言ってくれていいからな」

「はーい」


 不安だが、ランディによろしくと目線で伝えておけば大丈夫かな。

 ランディ、ラウトを見ててくれよ。

 そういう意味で目配せすると、満面の笑みで頷かれる。

 よかった、任せて大丈夫そうだ。


「では行くか」


 再び使用人とロイドさんに案内され、今度は食堂にやって来た。

 大公とその妃。

 数人の老人は大臣かな?

 あと、二十代後半の男女。

 その横にいる初老の女性は聖女っぽい。


「紹介しよう、ヒューバート王子。我が息子ハルオンとその妻オリシア。その隣が我が国の聖女リセーラだ」

「お初にお目にかかります」

「初めまして」


 二十代後半の男女は次期大公と次期大公妃。

 で、やはり初老の女性が聖女だった。

 三人ともかなり草臥れた顔をしている。

 聖女は老化と共に力が衰えると聞く。

 しかし、ここまで結晶化した大地クリステルエリアの侵食が進むと、たとえ彼女よりも若く強い力を持った聖女が現れても、結晶化を止める術はない。


「ええと、それから」


 大公が微妙な顔をしながら、三人の娘を呼び寄せる。

 三人とも俺より年上っぽい。

 一番下の子は十代後半、だろうか。

 ……まさか?


「我が娘たちだ」

「ソニアと申します」

「コリージェと申します」

「三女、パトリシアと申します」

「三女パトリシアはヒューバート王子と年が近いだろう。今17だ」

「あ、ああ……そう、なんですかぁ……」


 恐る恐る、隣のレナを見る。

 にこりと微笑まれるのだが、薄寒さを感じたのは気のせいだろうか?

 娘を紹介するって、つまり“支払いはこれでどうか?”って意味だろう。

 マジ、それ一番俺にはいらないやつぅ〜〜〜〜!

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