第108話 ミドレ公国(3)
ミドレ公国は、百三十年ほど前ルオートニス王の王弟が西方諸国への牽制と緩衝地帯として興した公国と習った。
トップは王ではなく大公。
しかし、実質的に既に独立した国家であり、百三十年もの歳月と
ただ、やはり流れを同じくする国らしく、城下町や貴族街、城などの建築物、大通り、場所の位置関係は俺が生まれ育ったルオートニス王国の王都と同じような感じだった。
さて、レナの歌声で大通りから半径数十メートル圏内の患者はもう大丈夫だと思うが、範囲でないところはどうしたものだろう。
早めにレナに治癒を頼みたいところだが、やはりまずは大公閣下に会って突っ込んだ話しないとダメだろうな。
「!」
城の前、そちらの門も開いていく。
大歓迎だな、見るからに巨大な人型兵器なのに。
そうして、城の前にあるだだっ広い噴水前にサルヴェイションと
ハッチを開け、レナに手を伸ばしてゆっくり地面に降り立った。
丸一日歩いて野宿して……地面は約二日ぶり?
「はぁ、はぁ! よ、よ、うこそ! いえ、あの、私はこの国の騎士団団長ロイド・エーテスと申します! し、失礼ながら、貴殿は——」
騎士団長か。
まあ、無難なところが出てきたな。
レナを後ろに。
ラウトと騎士たち、おっさんは馬車に隠れたままか。
では名乗ろう。
「俺はルオートニス王国、第一王子ヒューバート・ルオートニス。そしてこちらは我が国の『王家の聖女』レナ・ヘムズリー嬢。我が国が開発した魔道具
「な!」
はい、そっちにいいことしかございません。
若干怪しまれるかなーってレベルの、いいこと尽くめです。
「できれば大公閣下にお目通りし、貴国の技術者に早速
「な、なんと……、す、す、すぐに! すぐに閣下にご報告して参ります!」
「よろしく頼む。それで、可能であれば貴国の聖女殿にも同席していただきたい。また、待ち時間が惜しい。町の民を我が聖女に治療させてもよいだろうか? 見たところ、かなりの患者が隠れているように思う」
「な、なんと……そんな……しかしそこまでしていただくわけには……」
「準備には時間がかかろう? その間に命を落とす患者がいては、我が聖女が悲しむ。ミドレ公国は元々我が国の兄弟も同然。助けられる命は助けたいのだ。貴殿の部下を同行させてくれて構わない。動くなというのであれば俺はこのまま城で待とう。だが、聖女には民の治療をさせてほしい。彼女の力は村一つ分を瞬く間に癒すほど強いのだ」
「あ……あ……あの、ですが……っ、ほ、本当にそのような……」
まあ、そうだよね。
悩むよね。
他国のいきなり現れたやつらを、そう簡単に信用できないよね。
「お願いします! わたしに治療の許可をください!」
「レナ」
が、しかし、そこはうちのレナ。
俺の隣に出てきて、騎士団長に直談判。
「手遅れになってしまう方がいては大変です! お願いします! せめて病院だけでも!」
「……っ、わ、わかりました。あなたのお力は、私自身が目にしたばかり。信じましょう。ソレイ!」
「は、はい!」
「この騎士、ソレイを同行させます。どうぞ民をお救いください、聖女様。そして、大変申し訳ございませんがヒューバート王子殿下は城でお待ちください」
「わかった。こちらの騎士も護衛としてレナに同行させるが構わないな?」
「は、もちろんでございます」
レナに目配せする。
許可はもらえたよ、という意味で。
ぱあ、と花開く笑顔。
ええ、天使〜。
「ラウト、パティ、クレードはレナへついていてくれ。フォーディたちはメメ、マリヤたちと
「「「はっ!」」」
さすがに
勝手に触らせないように頼むわ。
奇異の目は覚悟していたが、期待や不安も入り混じっててミドレの城の人たちは大変だなぁ。
サルヴェイションはすでにハッチを占めて立ち上がっているから、手もつけられまいて〜。
「こちらへ。城の中へご案内します」
「ああ」
まだまだ困惑がでかい。
無理もないけどな。
っていうか、俺も未だにちょっと信じられないとこあるしな。
だからこっちの国の技術者さん、力を貸して!
お願い!
「ヒューバート様! 行ってきまーす!」
「あんまり頑張りすぎないように〜」
「はーい!」
……そしてレナさん、本当に治療行為が大好きでいらっしゃる。
根っからの聖女、なんだろあな。
「可愛いなあ、マジ天使」
「殿下、声に出ております」
「もう治すのは諦めたからいいんだ……」
「賢明かと」
お前らも諦めてんじゃん!?
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