第106話 ミドレ公国(1)

 

「ヒューバート様!」

「またか! 休む間もないな!」

『討伐する——』

「「よろしくお願いします!」」


 結晶化した大地クリステルエリア、エリア1。

 ミドレまでほんの数キロと聞いていたが、一晩歩き続けてもその姿は確認できない。

 むしろ、どんどん晶魔獣が集まっているように思う。

 トニスのおっさんも戦い疲れて、今は光炎コウエンの背負う馬車の中。

 戦闘というか、討伐は現在サルヴェイションが一手に引き受けてくれている。

 まあ、おっさんも休まないと進めないからな。

 というか、聞きしに勝る晶魔獣の数。

 蔓延っているとは聞いたが、後から後から湧き出るように襲ってくる。

 個人的には結晶魔石クリステルストーンがたくさん集まっていいなぁ、と呑気に思っていたのだが、それも最初だけだった。

 二分と経たずに新しい晶魔獣が襲ってくるので、もうただただ面倒くさい。

 なにより、結晶魔石クリステルストーンを拾う間もない。

 一箇所に止まるのは危険だから、進むしかないんだけど……ミドレの方角を知ってるおっさんが休んでるので迂闊に前へ進めないというか。


『————』

「? サルヴェイション? どうかしたのか?」


 変な音が画面から聞こえてるんですが?

 え、なに?

 ピポポポポポ、的な音が聞こえますよ?

 こ、故障した? まさか?


『晶魔獣のエネルギー反応の解析を終了。ターゲットロックが可能となった。半径三キロメートル以内のターゲット一掃攻撃を推奨する』

「え、それって……」

『一掃攻撃を推奨する』

「……お、オーケー、ちょっと待ってて——ランディ、光炎コウエン一時停止」

『はい!』


 多分、一応、大丈夫だとは思う。多分きっと。

 でも、心配なので光炎コウエンを停止させる。

 一ミリも動かないで、と伝えて、それからもう一つ。


「ラウト、ちょっと目を閉じて耳塞いでてくれないか?」

『え? う、うん。わかったー?』


 メメは光炎コウエンの操縦席だが、メメが止まり木のようにしているドローンはに馬車の中にいる。

 それを通して、ラウトに目と耳を塞いでもらった。


「ヒューバート様、ラウトくんにどうしてそんなことを?」

「デュラハンと約束したんだ。ラウトを戦いに関わらせないって。……ラウトは……ギア・フィーネの登録者だから、できるだけサルヴェイションが戦うところを見せたくない」

「あ……」


 それで記憶を取り戻してしまったら、ラウトとデュラハンは元の『あんまり友好的ではない関係』に戻ってしまう。

 パッと聞いただけでもめちゃくちゃややこしかった。

 同じ国の出身なのに、所属の都市が違うから敵対関係みたいになっていた、的な。

 あれ? デュラハンの所属していた都市が王家に反乱して? ラウトは反乱に味方して? デュラハンは反乱に加担したくないから捕まってた? だっけ?

 もーーー! ややこしーーーぃ!


「サルヴェイション、やってくれ」

『了解した。一掃攻撃を開始する』


 わけわからなくなったので、サルヴェイションに声をかける。

 すると、サルヴェイションは一度グッとしゃがんだ。

 しゃがんだ?

 なんで?


「「え、飛ん……?」」


 ジャンプした。

 でもなんか、こう、魔力で空を飛ぶ感じに近い浮遊感。

 一回転して、空中で停止すると両腕のドローン——もといオールドミラーという群集兵器を解き放つ。

 あ、あー、なるほどー。

 そういえばサルヴェイションは、攻守共に優れ、三十五基のオールドミラーを個別操作できるんだったわ。

 それを両手分、二十基を四方八方へ飛ばし、銃口を標的へと向けた。

 その瞬間、銃口が一斉に火を噴く。

 弾丸ではなく、ビーム兵器。

 しゅぱーっと一発出したら、少しずつ銃口がずれて連続で発射され続ける。

 三十秒もかからなかった。

 すぐにオールドミラーは一つに合体して、左右の腕に戻ってくる。


『ヒューバート、前方を』

「え、え? あ」


 サルヴェイションが指差した先には、城壁が見えた!

 あれだ! ミドレ!

 うわ、本当に王都だけになっているのか。

 もしかして、城壁の一部も結晶化してない? あれ。


「時間が、ないな」


 サルヴェイションは地上に降りた。

 目の前のモニターには敵性反応の赤い点が周辺三キロ以内に、綺麗さっぱりいなくなっている。

 うっわあ、ば、ばばばばばはばばばは。


『掃討完了。だが、すぐにまた集まってくるようだ。移動を開始することを推奨する』

「そ、そうだな。ランディ! また晶魔獣が集まってくる前に、移動を開始する! 上空からミドレを確認したから、俺についてきてくれ!」

『了解しました! ……と、ところで、殿下の遺物は今どうやって飛んだのですか? 魔力の類は感じませんでしたが……』

「俺にもわからーん」


 聞かないでくださーい。

 千年前の技術でもわけわからんもんが、俺にわかるわけがありませーん。


「……サルヴェイションって空を飛べたんだな」

『ギア・フィーネシリーズで飛行機能がない機体はない。水中に関しては、三号機と四号機のみが対応可能だが』

「よ、よかった。お前にも一応弱点があったんだな」

『動きが取りづらくなり、オールドミラーが使用不可になるだけで稼働そのものは不可能ではない』


 十分脅威だよ馬鹿野郎。

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