第93話 魔王デュラハンと死者の村(1)
それからしばらく、歩き続けていると——前方に奇妙なものが現れた。
大きな塔。
それを中心に家が無数に建っている。
待って、これ、俺、見たことある。
前世の漫画の中で——!
「まさか」
「ヒューバート様、あれは……もしかして、む、村でしょうか?」
羊の返り血のおっさんが迷わずその場所へと入っていく。
困惑の声は聞こえるが、俺たちも、その後に続いて村へと入る。
よく見れば村は魔法陣の上に浮いていて、段差があった。
サルヴェイションも
村の側面には畜舎のようなものがあり、中には馬や鹿、トナカイや牛などの晶魔獣が入っている。
マジか……!
「晶魔獣があんなに大人しく捕まっているなんて……」
「本当だ〜。全部首輪してるね〜。あれが晶魔獣を操る首輪かぁ」
「あのおじさんが乗ってたの、首輪した晶魔獣だったよね。ねぇねぇ、お兄ちゃん! 僕も晶魔獣乗ってみたーい!」
「うわぁ! ……わかったわかった、俺も興味あるし、聞いてみような」
「わーい!」
腰に飛びついてきたラウトの頭を撫でながら、俺も晶魔獣乗ってみたい気持ちめちゃくちゃわかるー!となる。
というかラウト、マジ、顔いい。
可愛いし、なんでも言うこと聞いてあげたくなる。
「え〜、ラウトばっかりずるいよ〜! ぼくも乗ってみたい〜」
「えー、ジェラルドも? 聞いてみようなー」
「うん〜!」
ジェラルドが反対側から抱き着いてくる。
くそぅ、ジェラルドも顔がいい。
なんでも言うこと聞いてやりたくなる。
元々ジェラルドへの俺の好感度カンストしてるのもあるけど。
右にジェラルド、左にラウト。
顔面偏差値高すぎる美少年に挟まれて——……………………普通こういうのって美少女じゃないの……?
異世界転生っていえば、美少女ハーレムでは?
いや、ジェラルドもラウトも顔がいいので別に文句はないですけども。
俺はレナ一筋ですし!?
「おーい、ヒューバート王子! うちの長を連れてきましたよ〜」
「あ、ほら、ちょっと離して。晶魔獣に乗せてもらえるか頼んでくるから」
「「は〜い」」
二人とも素直でよろしい。
ラウトはすっかりジェラルドに懐いたな〜。
「…………!」
そして、もしやもしやと思っていたが、やはり。
鳶色の髪を肩まで伸ばした、左右色の違う瞳の男。
黒い法衣、腰の後ろに二本の長剣、首に傷。
ああ、くそ、漫画で見た通り。
「ヒューバート様」
「レ、レナ」
やばい、どうしよう。
今までで一番不安。
一歩一歩歩み寄ってくる、あれは……『救国聖女は浮気王子に捨てられる〜私を拾ったのは呪われてデュラハンになっていた魔王様でした〜』のヒーロー、デュラハン!
国外追放されたレナが拾われ、心を通わせる運命の相手じゃないか!
うおおおお、そう言われてみれば!
晶魔獣を操る首輪=晶魔獣の長、魔王デュラハン。
目的地が
げろ……。
どうして気づかなかったんですか? ヒューバート・ルオートニスくん。
気づいてもよさそうなもんじゃない?
おげろ……。
「!」
「え!」
「!? 旦那!?」
一定の距離。
顔が見える距離まで来たと思ったら、デュラハンは腰の剣に手をかけた。
足を肩幅まで開き、腰を落とし、うっすら魔法陣まで展開するほどの臨戦態勢。
俺も思わず杖を手に取ったし、ランディとジェラルドも剣と杖を掴んで前に出した。
デュラハンの反応はおっさんにも予想外だったらしく、慌てて声をかけつつ、自分も俺たちに対して戦闘モードになるべきか躊躇しつつも、腰の後ろに手を回した。
「…………ラウト、か?」
「え?」
ラウト?
思い切り振り返る。
キョトンとした表情の、ラウトだな?
「え? 知り合い……?」
ラウトと? デュラハンが?
でもラウトはわけがわからないっていう顔してるし?
はあ? どういうことだ?
「? 旦那の知り合い……ですかい?」
「ラウト、あの人のこと知ってるか?」
「え、わ、わかんない。知らない……」
おっさんも戸惑ってる。
ラウトもデュラハンのことを知らないって言ってるし、どうしたらいいんだ?
「……っ……どういうことだ? なにが狙いだ? 俺に会いに来たのではないのか?」
「え? な、なに言ってるの……なんか怖い……お兄ちゃん」
「あ、あの! なにか勘違いしてませんか! ラウトは記憶がないから、その……もしラウトのことを知ってても、多分、覚えてないので!」
「記憶がない……!?」
めちゃくちゃ驚かれた!
……もしかしてマジにラウトを知ってる?
向こうも嘘ついてるようには見えないし?
正直漫画のデュラハンと同じぐらい強いとかだと、俺一瞬で消し炭だと思う。
それでもラウトは、俺とレナが助けたんだし、責任持って守らなきゃ。
ぶっちゃけもう、俺より強いけどな、ラウト。
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