第76話 千年前の人類

 

「あ、ヒューバートお兄ちゃん!」

「体調は問題ないか?」

「うん!」


 と、とてもいい笑顔で応えてくれる美少年。

 名前は『ラウト』というらしい。

 名前以外は思い出せないという、この金髪碧眼の美少年は、一年前に結晶化した大地クリステルエリアで助けた例のパイロットスーツの男の子。

 現在も城での一室で体調の経過観察中。

 といっても、もうあれから一年経つので、いい加減限界ではないかなー、とみんな思っている。

 なので——。


「なあ、ラウト。そろそろ暇だろう? 剣や魔法を学んでるって聞いてるし、どうかな? ラウトがよければ来年から俺が通ってる学院に、一緒に通ってみないか?」


 と、いうのは父上の提案だったりする。

 この一年で文字の読み書きも覚え、剣や魔法の訓練も積んだラウトは——ぶっちゃけジェラルド並みのスペックだった。

 なんとなくそんな気はしていたのだが、座学が追いつくスピードもやばいし魔力量も魔法騎士団の測定器が壊れたほど。

 つまり、ジェラルドと同等の魔力量の持ち主。

 千年前は魔法なんてかったはずだから、もう体質が最初からそうだったんだろう。

 魔法を使える今の人類と千年前の人類、なんか違うのかなーとか、気になる点はあるけれど。

 剣の腕前の方もすごい。

 騎士団と総当たりしても負けない技術力、体力、持久力。

 機械科学の時代のはずの千年前に、剣なんて使ってたのかってくらい誰もラウトに勝てなかった。

 騎士団長はやや顔を曇らせながら、「彼の剣技は人を殺めたことのある剣です」と言っていたのも気になる。

 千年前は戦争をしていた。

 今は、晶魔獣という明確な人類の敵がおり、騎士団は誰も人を殺したことない。

 その差が明確に現れたのだろう。

 人間が相手だったら、寸止めでも躊躇する。

 ラウトは躊躇しなかった。

 その差だ。

 それは騎士団長にも、「千年前は人間同士で戦争していたらしいから」と説明したけれど。

 一昔前ならば、隣国セドルコ帝国からの侵略に、応戦し、人を殺めなければならないこともあっただろう。

 今はもう、どこもそんな余裕はない。


「学校、面白そう! 行きたい! お兄ちゃんたちと一緒?」

「うん、そうだよ」


 本当はこの時代の常識を一から学んでほしいから、レオナルドと同じ学年が好ましいのだが、まだまだ常識知らずのレオナルドとラウトを一緒にするのはちと酷だ。

 なにより「助けたヒューバート殿下たちが面倒を見るべき」って意見が強い。

 ラウトのスペックが露見してからはより、その傾向が強い。

 まあ、聖殿派の一部では「これ以上ヒューバート殿下に能力の高い者が側付きになるのはいかがなものか」という意見もあるみたいだが。

 リーンズ先輩は卒業したら、籍を王宮植物研究員ってことにすること内定してるしねー。


「それじゃあ来年の睦月から、編入ってことでラウトをうちのクラスに入れるよう手続きをしておくよ。なにか思い出したり、気になることがあったら気軽になんでも言ってくれよな」

「うん! あれ、もう行くの?」

「ごめん、他にも仕事があるんだ……」


 言い出しっぺは確かに俺なのだけれど、国中の病院の衛生観念改善に関しては俺が担当することになった。

 王太子として政務は少しずつ手伝う部分が増えてきたけど、ここまで大きいものは初めてだ。

 父上からの期待の眼差しも裏切れない。

 石鹸や消毒液、洗浄液などをリーンズ先輩に頼んで一緒に作り、それらを配布していくつもりだ。

 もちろん自然に優しいやつをな!

 石晶巨兵クォーツドール作製は最近、ジェラルドとギギに丸投げ状態……俺だって! 俺だって石晶巨兵クォーツドールいじりたいのに!

 もっとロボットっぽくしたいし、いろんなタイプのロボットにできないか試したいのに!

 犬とか! 猫とか!

 ギギみたいな鳥型AIがいるんだから、ニチアサみたいなロボットがいてもよくないか!

 合体するやつーーー!


「えー、つまんなーい! あ、ラウトも一緒に行っていい?」

「だーめ。関係者以外立ち入り禁止なので」

「ぶぅー」


 と、頬を膨らませる。

 ま、まあ、ずっと部屋で一人なのもつまらないだろうし……あ。


「ランディ、ラウトと剣の稽古をしてきたらどうだ?」

「自分ですか!?」


 護衛兼側近ってことで、部屋の入り口に控えていたランディを巻き込む。

 系統としては剣も魔法も得意なラウトはランディの——努力しているランディには申し訳ないが——上位互換。

 それならラウトに色々教わった方がいいのではないだろうか?

 一見すると肉体年齢近そうだし。


「やるやるやるー! 本飽きた〜! ランディ、あそぼ!」

「剣の稽古は遊びではないぞっ! ヒューバート殿下が申されるのであればやりまするが!」

「お、おう。あんまりムキになりすぎるなよ……?」


 ランディはちょっと熱くなりやすいからなー。

 じゃあ、よろしく、と護衛騎士を一人連れて部屋をあとにする。

 研究塔に行って進捗を確認しなければ。


 ちなみに、案の定というべきか……ランディが剣でも魔法でもフルボッコにされたらしい。

 負けて悔しいランディが、俺に護衛時間を減らして訓練する時間がほしいと直談判してくるぐらいには圧倒的に負けたのか……。

 ランディ、あの歳にしては一番なんだけどな。

 千年前の人類、恐るべし。

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