第74話 城下町視察(3)
そんなに感謝されると居心地が悪い。
本当に上手くできる自信なかったし。
前世の母さんの自称ダイエット料理だし。
「あとはじゃがいもを粉末にして、小麦粉の代わりにするのもいいかもしれない。食糧問題は父上にも色々相談してみるよ」
「あ、あぁ……ありがとうございます……!」
「こちらこそ、色々教えてくれてありがとう」
改めて、この世界ってば詰んでる。
それを思い知らされる一件。
それでも食糧を奪い合って殺しあわないだけ、この国はマシなのかもしれない。
治安が悪そうにも見えないし。
……治安。
「そういえば治安はどうなのだろうか? 盗みや殺人が多いとは聞いてないんだが」
「あ、ああ……はい。半年ほど前までは、そうですね、多かったです」
多かったの!?
けど、彼らの表情が思い切りびっみょ〜〜〜!
「…………聖殿関係してる感じ?」
「は、はぁ、さすが殿下。お察しの通りで」
「なにをしたのですか?」
聖殿と聞いて声が固くなったのはレナ。
前に出て、有無を言わさぬ態度。
俺と違って聖殿とより身近なレナの方が、思うところがあるのだろう。
「いや、その。殿下がでっかい“遺物”を持って帰ってきましたでしょう? あれ以来、聖殿の騎士が町をうろつかなくなって、だいぶマシになったんですよ」
おいおいおいおい。
それって治安悪化させてたのが、聖殿の騎士って言ってるようなものなんですけど?
は? マジ?
「……ちなみに、聖殿騎士ってどんなことしてる人たちなんだ?」
「奴ら曰くですが、町の治安維持に勤めているって話ですが」
「とんでもねぇ奴らでしたよ、無銭飲食は当たり前。逆らえば殴る蹴る。死んだやつもいます。店のものは勝手に持っていくし、娘を連れてかれて数日返されなかったって話もあります」
「聖女候補以外の娘には、価値がないそうですよ」
「ええ……」
「なんということを……!」
普通に蛮族で草。
いや、笑えねーけど。
略奪者のそれじゃねーか。
聖殿騎士ってのは一応聖殿派貴族のはずだ。
完全にただのゴミじゃん。
連れて行かれた娘も返されたのはいいが、無事ではないんだろうな。
いくら貴族より平民の方が貞操概念がゆるいといっても、それ以前の問題。
人としてやっちゃいけないことだと思います。
レナも怒るさ、それは。
「俺の妻も、去年聖殿の騎士たちに連れて行かれて拷問されたんだ」
「「!?」」
「なにもしてねぇっつってんのによ。ただ甚振るためだけに、不敬罪でっちあげて……。以来、話しかけても反応がなくて……病院にずっと入院してるんです」
ああ、さっきこの甘いさつまいもとカボチャのお菓子を持っていってあげたいって、言ってたっけ。
隣でレナが怒りに震えている。
人の心の怪我は、この世界の医学ではどうしようもない。
けれど——。
「レナ、今からその病院に行ってみるか?」
「「よろしいのですか!?」」
レナとおっさんの声が重なる。
いいも悪いも、このままだとレナが自分一人で突撃するって言いそうだし。
「試してみたい魔法が一つある。それで直るかはわからない。それでよければ俺に奥さんの治療をさせてほしい」
「!? あ、は、はい! ぜひ!」
「ヒューバート様……!」
サルヴェイションとの約束でもある。
人を救え。
目の前にいる人だけでも、俺は助けたい。
俺がいつも助けられているから。
どうせ視察だしと、おっさんは店をすぐ畳んで俺たちを病院に連れていってくれた。
だが、ここでも驚いた。
「えっ! 衛生観念!」
「ヒューバート様? どうかされたんですか?」
「いや、病院の割に汚くない!? 蜘蛛の巣張ってるんですけどぉ!?」
掃除はされてないし、窓もばっちぃ!
人は多いし、換気もされてない。
怪我した人の包帯は使い回し感すさまじいし、全体的にクッセェェェェェェ!
なにこれなんの匂い!?
いろんな匂いが入り混じりすぎててしんどすぎる!
え! この世界の病院ってこんな、え? え?
「病院はどこもこんな感じですよ」
「そうなの!?」
「王都の病院なのでマシな方です。人も多いですしね」
「そうなの!?」
レナがケロリと言うし、パティも追随してきた。
結晶病患者の回診の時によく病院に来る二人が言うのだから、マジなんだろう。
「やばい、一刻も早い病院の衛生観念の改革を行わなければ。石鹸……石鹸だ、異世界チートあるある……」
「ヒューバート殿下、大丈夫ですか?」
「ヒューバート様、おつらいのでしたらお休みになりますか?」
「だ、大丈夫……」
こんな匂いの中で休むとか無理。
首を振ってからおっさんの奥さんがいるという、三階の一室に連れて行かれる。
入院費はどうしてるんだろうと聞いたら、聖殿から高額な“口止め料”をもらっているんだそうだ。
だから訴えることはできないし、訴えても“口止め料”を受け取っているから示談扱いになるだろう、と。
やり方がクソ野郎のそれじゃねーか……。
「この部屋です。コリーナ、お見舞いにきたぞ」
「…………」
ぼんやりと天井を見ながら横たわる女性。
この部屋も埃くさい。
布団も洗っているように見えないし、こんなところにいたら健康でも病気になりそう。
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