第48話 お茶会(1)

 

 護衛騎士も決まり、こっそりと研究塔へ行こうとしていた俺は、ランディに捕まっていた。

 お茶会の会場説明である。

 いや、別に忘れていたわけではありませんよ? 断じて。

 いつの間にか明日だっただけで。


「このように、警備は万全にしてあります。ただ、問題が一つ」

「食事か?」

「っ、はい。すべて我がアダムス侯爵家を通して集めました。叔母上が手を回していないとも、言い切れません。申し訳ございません! 明日はこのランディが毒味を努めますので!」

「いや、それなら俺が口にするものにはジェラルドやレナに[解毒]をかけてもらえばいいだけだ。ランディが命をかける必要はない」

「な! なんという寛大な……!」


 と、相変わらず大袈裟なランディ。

 の、後ろで俺の護衛騎士たちも瞳を輝かせて感動してる。

 俺、そんなにすごいこと言った?

 この世界にはだいぶ慣れた……と思ってるんだけど、やっぱ理解できねーもんはできねーな!


「……」


 ただ、ランディは完璧だと思っているようだが、アダムス侯爵家経由で人を集めたなら多分警備の方にも隙があるだろうなぁ。

 それこそメリリア妃の息のかかった警護兵は、賊が扮している可能性すらある。

 これって指摘してあげた方が優しさ?

 なにかあった時ランディのせいになるのか。

 じゃあ言っておこう。


「ランディ、警護兵の身元は問題なく全員確認したのだな?」

「はい! もちろんです! ……もし叔母上が明日、すげ替えようものなら自分の[索敵]魔法に引っかかります。事前登録しておきましたので」

「そうか。では大丈夫かな」


 俺の[索敵]魔法は範囲を強化しているけど、ランディの[索敵]魔法は精度を強化している。

 これは俺とランディの体質——得意属性に関係していた。

 俺は闇と無属性。

 ランディは風属性。

 本当だと俺が精度強化、ランディが範囲強化した方が伸びがいいのだが、話し合ってあえて逆にした。

 魔法練度によって、俺が精度、ランディが範囲が自動で伸びるから。

 魔法も幅が広いし、ジェラルドのようにオリジナル魔法を生み出したりもできるし、自由度広すぎだろ。

 なんにしても、明日はレナのお披露目。

 このお茶会でまだ婚約者が決まっていない貴族が、良縁に恵まれるといいなぁ。


「明日は肩が凝りそうだなぁ……」

「マッサージいたしますか?」

「無事に終わったら頼むかも」

「喜んで!」


 半分冗談だったが、このあとランディが[マッサージ]魔法を習得したので今後は発言に気をつけようと思います。



 ***



 さて、そんなこんなでお茶会当日。

 ドレス姿のレナ楽しみだなぁ、と思っていたらパティがまーた気合を入れてくれましたよ。


「ヒューバート様!」

「うあーーー! 目が! 目があぁァァァッ!」

「ヒューバート様!?」


 俺が女子寮に馬車で迎えに行ったら、嬉しそうに飛び出してきたレナの可愛さ、可憐さ、美しさ。

 薄い水色のワンピースドレスは派手すぎず、しかし地味なわけではなく金糸で刺繍が施されて、ふわりと靡くたびに光に当たって煌めく。

 同じ生地のリボンのチョーカーとレースと花のあしらわれたカチューシャが年相応さを醸し出し、かつ、レース網みの手袋が清潔感を出す。


「無理だ、直視できない」

「ヒューバート殿下がレナ様に贈られたドレスですよ! ちゃんとご自身で確認してください!」

「無理! 可愛い! 無理! 眩しすぎて目が潰れる!」


 許せパティ、俺だって母上に「定期的に婚約者にドレスや装飾品を贈るのは王族の嗜みよ」ということで毎月贈るようにはしているけど、ぶっちゃけドレスのことはわからぬ。

 パティと仕立て屋に丸投げである!

 予算という名のお小遣いから、俺がお金を出しているだけです!

 どんなドレスが出来上がってくるかなど、俺は知らぬ存ぜぬ!

 だってこういうの、プロの方がいいじゃん!

 プロ、いつものことながらいい仕事しすぎ!


「ヒューバート様……あの、でも、わたし、ヒューバート様に、ちゃんと見ていただいて感想をお聞きしたい……な、なんて……」

「っ!」


 そ、そんな可愛いことを言われたら、やらねばならない、男として。

 ゆっくり立ち上がり、恐る恐る振り返る。

 まずい、もうすでに後光が見える!

 これが聖女オーラか。

 す、凄まじい可愛いさだ、目が開かない!

 だが、開けろ、瞼を。

 潰れそうなほどの神々しい光を——直視するのだ。

 負けるな、俺の瞼。

 ここで開かねばいつ開くというのか。

 くそ、どうした、頑張れ!

 あと数ミリだ! 負けるな!

 ……俺はいったいなにと戦っているのだろう。

 ふと、そんな考えが過ぎる。

 だが目の前の着飾った彼女の眩しさは、もはや一種の特殊攻撃。

 威圧すら感じる。

 負けてはならぬ……負けては。

 今日は一日レナの側で、彼女をエスコートするんだぞ……!

 出だしからこんな調子でどうする!

 そうして己を鼓舞し続け、顔を腕で覆い光を遮り、ようやくゆっくりと瞼を開いた。


「…………光、そのもの?」

「ヒューバート、いつまでそれやってるの〜? そろそろ行かないと遅刻するよ〜。あ、レナ、今日も綺麗だね」

「あ、ありがとうございます、ジェラルドさん」


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