第46話 アグリット・リーンズ(3)
「それは俺が許さない。聖女は守る。少なくとも、我が婚約者のおかげで我々は可能性を見出せたのだ。聖殿にこれ以上、彼女たちの自由を制限されるのは許し難いしな」
「っ!」
新たな魔物とか、冗談だろ。
俺は考えもしなかったよ。
でも、そう考える人間もいるのか。
漫画だとレナの両親はそういう考えの持ち主で、レナは実家でも虐待さられていたんだものな。
まあ、俺がそんなの禁止するけど。
やらかしたやつは厳罰だ厳罰ー!
「殿下、ぜひこの計画の末席にわたくしめの名も置いてくださいませ。わたくしめは植物関係の研究をしております。この計画に我が知識が使えるのであれば、出し惜しみせずにご協力させていただきます」
「リーンズ先輩……」
花が俺の前に膝をついて、礼を尽くしている。
シュール。
言ってることはかなりありがたいんだが、花なんだよなぁ、人間と同じ大きさの……中に人間が入った、ガチの、花。
どうしよう……すごくありがたいこと言ってくれてるし、その植物の着ぐるみ?のこと聞いても大丈夫かな?
気にならないといえば気にならないけど、気になるといえば気になるというか。
ぶっちゃけ半分くらい聞くのが怖くなってきているし。
「ヒューバート、リーンズ先輩は信用できる人だと思うよ! 協力してもらおうよ!」
「お、そうだな」
ジェラルドが言うならそうしよう。
着ぐるみ?については突っ込まない方向で!
もし俺とジェラルド以外が花の着ぐるみに突っ込んだら、もうあとは知らね。
「リーンズ先輩さえ良ければぜひ。俺たちの研究室は九階です」
「わかりました! まず現物を見てから魔樹をどのように取りつければよいのかを検討しましょう!」
その格好でうちの研究エリアに来るのか?
いや、悪いとは言わないけど。
シンプルに怖い。
レナやランディに会わせる前に容姿の特徴を言っておかないと、魔物として討伐されそうだな。
「ヒューバートはそろそろ寮に帰った方がいいかもね。ご飯の時間に遅れちゃうよ」
「あ、もうそんな時間か。……ジェラルドは一緒に帰らないのか?」
「あ〜、そうか、ヒューバートを一人で帰すわけにはいかないもんね……」
そういう意味で聞いたんじゃないけど!
「一人で帰れるぞ」
「だめだよ〜。聖殿側の暗殺者がいつまた狙ってくるかわからないんだから〜」
心配しすぎじゃないか?
俺だって[索敵]魔法は常時発動中だぞ!
俺はの悪意や殺意や敵意の距離や位置がわかる魔法だぞ!
……この魔法作ったのジェラルドだけどな。
「では、わたくしめが九階へ上がり確認しても良いでしょうか。なにも触りませんので」
「申し訳ない、先輩。また明日来るので」
「いいえいいえ、大変有意義な時間でした。明日から殿下に仕えさせていただけると思うと、今宵は眠れそうにありません」
「寝てくださいね」
「あはははは。御意に」
なんだろう、この人から気配がする。
研究に没頭して飲食と睡眠を取るのをついつい忘れちゃう人の気配が……。
「では、明日」
「はい、お待ちしております」
お待ちしております、か。
……リーンズ先輩、授業は……?
***
ぐぬっ、くぅ、くううう!
「しっっっっつけー!」
「しかも手数が多いし、自動防衛魔法持ちだね」
翌朝、俺とジェラルドは森の方へと追い詰められていた。
寮を出た途端、今までで一番強い暗殺者に襲われたのだ。
いやもうなんかこれだけ堂々と襲われるとこいつを暗殺者として認めたくない気持ちが勝るけどな!?
「どうしよう、ようやく僕らの能力を分析して、割とまともな暗殺者を仕向けてきた感じだね」
「いつかまともな暗殺者は来る気がしてたけどこんなにわかりやすく襲ってくるやつを暗殺者認定していいと思うか?」
「じゃあ、賊?」
「賊だな」
ジェラルドの狙撃魔法も相殺するし、俺の魔法も姿を隠されては当てられない。
ジェラルドに炙り出してもらおうか?
遅刻したくないんだよなぁ。
「よし、俺が前に出る。狙ってきたところを狙い撃ってくれ」
「王太子が囮をかつて出るものではないよ」
「遅刻するよりマシだろう? 大丈夫だ。俺は“硬い”からな」
「むう……」
闇属性魔法の杖を取り出し、[ダークシールド]と[身体強化]と[影抜かし]を重ねがけ。
ジェラルドと頷き合い、飛び出す。
「ジェラルド!」
「くっ!」
魔法弾が無数に飛んでくるけど、俺の硬さを舐めんなよ。
全部[ダークシールド]で防いでやるぜ!
変化球は[影抜かし]——制服の黒い部分はすべて攻撃判定無効になる魔法で、無効化だ!
その隙に魔法弾が放たれたところをジェラルドが撃ち抜く。
「逃げられた」
「……暗殺者認定はできないけど、今までで一番手練れだな。今日は様子見?」
「だとしたらヒューバートはしばらくおとなしくしてた方がいいかも。行動パターン変えてほしいなぁ?」
「えぇ……」
確かに最近寮から出たらレナと合流して一緒に登校。
昼食は庭の丘で食べて放課後は研究塔、がパターン化している。
狙われている自覚があるので、待ち伏せの可能性を減らすためにも行動パターンを……変えるしかないのか……くう。
「でももう少しで、新しい試作機ができるのに……!」
「ぼくと先輩でやっておくから。ヒューバートは近衛騎士に護衛してもらって。最低二人」
「!? そんな!」
「試作機できたら呼ぶから」
「…………」
膝から崩れ落ちた。
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