第33話
フィル達が獣の楽園に来てから二か月が経過していた。
マーサとの訓練や実戦訓練を経てフィルも獣型の魔物と戦うことに慣れてきていた。
そして、狩場を第一階層から第二階層に移動し、次回からは第三階層に挑むつもりだ。
「そっちいったぞ、フィル」
「任せて!」
三匹いたワイルドボアの内の一匹が、レオの攻撃範囲を抜けてフィルの方へと向かってきていた。
真っすぐに向かってくるワイルドボアは今のフィルにとっては良い的でしかない。
余裕を持って身構えていたフィルは最近覚えた魔法を試してみようと意識を集中した。
「エンチャント」
付与魔法のエンチャントは、武器や防具などになんらかの効果を付与する魔法だ。
これはドワーフのみが持つ特殊な技法を用いて武具類に彫り込んで永続的な効果を付与するルーンとは異なり、一時的に効果を付与する魔法である。
今回フィルが使用したのは属性付与で、雷属性を付与した。
雷属性付与は養成学校のパーティー戦でエルフ達が使用していたものであり、有用性を知っていたフィルはマーサに教わり身に着けたものだ。
フィルによって雷属性を付与された矢は、ワイルドボアの眉間に突き刺さった。
ワイルドボアはびくりと一度体を震わせてから頭から地面に突っ込み倒れた。
突進の状態から体が麻痺してつんのめったのだろう。
完全なオーバーキルなのだが、練習の一環として使用しているので問題はない。
咄嗟の場合でもエンチャントを使用できるようにするには普段から使って体に染み込ませた方が良い。
そう思って最近やっていることだが、成果は出来てきているようだった。
「もうここも余裕みたいだな」
レオも最近では安心して背後を任せられるようになってきたフィルの成長を見て喜んでいた。
レオからすれば、迷宮内での探索は自分のことはそっちのけでフィルの育成にこの半年近くを費やしたようなものなので成長してもらわねば困るのだが。
「うん、いよいよ第三階層だね」
「ボア肉も飽きてきたところだからな。ちょうどいいぜ」
一か月も連続でワイルドボアの肉を食べていたレオはさすがに飽きが来ていた。
第三階層は、中央部に沼地があり常に霧が立ち込めていて見通しが悪い階層である。
沼地には第三階層最強である鰐型の魔物のスロータークロコダイルが生息していて他にカバのような魔物や鳥型の魔物が散在している。
しかし、第三階層でメインの標的となるのは沼地周辺の草地に生息するマッドカウ。その肉質は、牛に近く美味であるためカウと呼ばれているものの、水牛のバッファローのような鋭い角を持った魔物でありその両角を前面に押し出した突進は迫力もあり脅威である。
実はレオはマッドカウの肉が大好物であり早く第三階層に行きたかったのだが、フィルの成長を考えて泣く泣く我慢していたのである。
「ごめんね、僕のせいで」
「気にするな。じゃあ解体して今日はもう帰ろうぜ」
フィル達は、フィルが錬金術の抽出が使えるので魔物の解体が早く、綺麗に分けられるので探索局の買い取り額がビギナー探索者中トップであり喜ばれている。
しかし、フィルの魔力量はそれほどないため、抽出で解体できる魔物の数は限られる。
そのため、戦闘で使う分の魔力を温存する必要があることから狩りすぎた分の魔物の解体は自分たちで行う必要がある。
普段、フィル達が口にしている肉はこちらの方の肉だ。
まだ解体に不慣れな二人は練習になるからいいと思ってやっているのだが、これがなかなか時間がかかる。
それが三匹分もあるのだから今日はこれで終わりする時間になりそうだった。
「もっと高い素材の解体になったら魔力回復ポーション飲んで抽出したほうがよさそうだよね」
「そうだなー。でもしばらくは自分達でやったほうがいいだろ」
フィル達は仲良く会話しながら解体を行っていく。
やがて、素材運搬用の台車が満杯になったところで第二階層の探索を終えたのだった。
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