第3話
迷宮自治都市では、独自の暦を採用している。
今年はヨシュア歴六十年。独立を果たした年を元年とした暦である。
迷宮自治都市の周辺には四季があり、一年は三百六十日でひと月三十日の十二月制が採用されている。
大体、一月から三月までが秋、四月から六月までが冬、七月から九月までが春、十月から十二月までが夏となる。
今日の日付は一月一日だ。
この都市では年が明けると全員が年を重ねることになっているので、フィルもレオも十五歳になったことになる。
フィルの住む職人街から最寄りの探索者養成学校は第三探索者養成学校となる。
この都市には探索者養成学校が二十校あり、それぞれが二百人の学生を収容することができる。
人口三十万人のヨシュアにおいて、毎年四千人の探索者志望者がいるという事実が、いかにこの都市が探索者の街であるかということを物語っている。
第三探索者養成学校まではフィルの家から徒歩二十分ほどだった。
フィルは、その広いグラウンドを見て改めて胸を熱くする。
綺麗に整地されたグラウンドにはちらほらと新入生だろう少年達の姿がみえる。
グラウンドの奥には座学を行うのだろう二階建ての大きな建物があり、その隣には屋内訓練所を確認することができた。
(遂に憧れの探索者への第一歩だ)
幼い頃から探索者に憧れていた。
レオの両親から聞いた話、他の探索者のお客さんから聞いた話。
迷宮には夢がある。未知との遭遇、富、名誉。
出会った頃には既に探索者になることを決めていたレオと話しているうちにいつしかフィルも探索者になりたいと考えるようになっていた。
一方で、一人前の鍛冶職人になることも諦めてはいない。父が亡くなってから生きるために手伝い始めた錬金術についても同様だ。まだ半人前でしかない鍛冶の腕だけでは生活していくのも厳しかった。
それで近所の錬金術師の厚意で始めた錬金術だが、これにもフィルはやりがいを感じ始めていた。
探索者養成学校での訓練は、昼休みを挟んで午前と午後の三時間ずつ。それ以外の時間で鍛冶と錬金術を行うことにしていた。
忙しくなるなとフィルは新たな決意と共に気合いを入れているとレオに肩を叩かれた。
レオは、フィルにニヤッと笑いかけ「いこうぜ」と言ってグラウンドへ駆け出した。
グラウンドで二人が待っているとぽつぽつと人が集まりだし、二十分もすると全員が集まったのだろう、教官であろう人達が整列をし始めた。
教官達はみんな老齢だ。それもそのはず教官は全て探索者を引退した者達がなるものだからだ。
自身が得た経験を伝え街の将来を託す。
彼らは自身の職に誇りを覚えているのでその指導も厳しい。
ちなみに冬になると現役の探索者も迷宮に籠らなくなるため、副業として探索者養成学校の教官として働く者も多い。
そのため、後半の三か月はより実践的な指導が多くなり、学生は地獄を見ることになる。
「あの爺さん達つええな」
レオの感心したような呟きをフィルが拾う。
「わかるの?」
「ああ、元探索者ってのは伊達じゃないみたいだぜ。これは楽しめそうだな」
楽しそうなレオの言葉にフィルの頬が引き攣る。
レオがこのような顔をするということは、訓練がかなり厳しいものになりそうだと直感的に理解してしまったからだ。
鍛冶仕事によってそれなりに上半身は鍛えられているが、探索者になるために特別な鍛錬などはしていないからだ。
訓練が厳しいのは覚悟していたが、もうちょっと身体を鍛えておけば良かったとフィルは後悔した。
そうこうしていると、一人の老人がグラウンドにある演壇に登っていた。
少年達がそれをみて静まり返る。
「今年もよく集まってくれた。君達二百名を歓迎しよう。私は第三探索者養成学校長のヨゼフだ」
学校長の挨拶が始まり、今後のスケジュールの説明に入る。
どうやら学生は二十五人ずつの八組に分かれて訓練をするようだ。
訓練は、一組から四組までは午前に座学、午後に実技。五組から八組までは午前に実技、午後に座学を行うという。
組分けは学舎の入り口に貼り出されているらしい。
「それでは自分の組を確認して各自の教室へ移動してくれ」
ヨゼフはそういうと演壇から降りた。
それを確認した学生達はぞろぞろと学舎へと移動を開始する。
フィル達もそれに続いて移動を始めた。
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