第42話 伝言ゲーム ★玉仁羽空穂
★ 玉仁羽空穂
「これまた今まで以上にマニアックですね。けど、今度もまた分かりやすいです」
姫ちゃんもそろそろおネムになってきたのか、欠伸を噛み殺している。
もちろんわたしもおねむねむ。ふぁ~あ。
「エマーソン・レイク・アンド・パーマー。七十年代にイギリスで活躍したバンドです。これは彼らのライブを収録した知る人ぞ知る有名なアルバム。邦題は――展覧会の絵」
マニアックで知る人ぞ知ってるけど有名って、わたし、もう聞いてて頭が『?』マークでこんがらがっちゃいそう。たぶんそんな変なこと言ってないんだろうけどねー。日本語ってむつかしいよねー。
「絵ってことは!」
わたしが変なとこで引っかかっていたら、恵美寿ちゃんが目を見開いていた。
「その絵のことを言ってるんでしょう。展覧会は分かりませんが、この屋敷に絵と言ったらそれ以外にないですし。だからこそ、一緒に脚立が置いてあったと見るべきでしょう。恐らく、高所に――脚立を使ってでしか調べられない高所に目的の物があると見るべきです」
「さっすが、姫ちゃん!」
「あわわ。ちょ、ちょっとぉ!」
バシバシッと恵美寿ちゃんが姫ちゃんの背中を叩いた。よろける姫ちゃんが、その度にボタンを離すものだから『ガゴカコガゴカコ』二階から音がした。嫌がってるけど、まんざらでもなさそう。ほっぺがまっかっか。ヤドクガエルみたい。
さーてー。
頭上の絵を見上げる。
先生のお爺ちゃんの友達が描いたという大きな絵。壁に飾られたその絵は、とてもじゃないけど、わたしたちの身長じゃ調べることができない。脚立ってどこだっけってホールを振り返ってみれば、恵美寿ちゃんがもう横でぐっぐっと脚立の強度を確かめていた。そういえば、先生が置いとくって言ってた気がする。
「あたしがのぼるね!」
恵美寿ちゃんが一番背高いからね。
でもわたしものぼりたかったな。先を越されちゃった。いいもん。見つからなかったら次はわたしのば~ん♪ しかし、そんなわたしの期待は裏切られ、すぐに声が上がる。
「ん? あ! あったー!」
恵美寿ちゃんが脚立の一番上で背伸びして女の人の目ん玉をほじほじしていた。だ、だいじょうぶ? そんなことして? ひやひやしてたら、一瞬体がふらついた。あわわ。もっとひやひや。慌てて脚立を抑えに掛かる。
「よいしょっと。見てみて」
わたしの心配も他所に脚立を飛び降りて、目の前に差し出されたそれは、ガラス玉のように見えた。
丸い玉には瞳が描かれていた。
白く覆われた球体。茶色の虹彩、真ん中に黒い瞳孔。
もう一度、絵を見上げた。右目。そこだけぽっかりと空洞になっている。他はちゃんと絵の具で塗られてるっぽいけど、右目だけはこのガラス玉を嵌めてあったようだ。面白いことするな~。
「あとね、これ」
差し出されたのは初詣のおみくじみたいに折り畳まれた細い紙。
二人でちょこちょこその何重に折ってるのか分からない紙を開いてみれば、飛び出してきたのは最早おなじみの英語の文言。
「めんたまの裏っかわに収まってたんだ」
読めない。
『Ⅲ』
『Master of Puppets』
今度は『DANGER!!』って書かれていなかった。安全ってことかな? 小さな長方形の白い紙に印刷されたパソコンで書いたような文字。すぐに階段下の姫ちゃんの下へ持っていく。
「はいこれー」
「あったんですね、どれどれ……ああ」
覗き込み小さく溜息をついた。分かりきっていたとでも言うように。想像ついていたとでも言うように。それを聞いたわたしたちにも、姫ちゃんの気持ちはよく伝わった。
「マスターオブパペッツ――日本語で、人形の御主人様」
意味ありげだったけれど、今まであまり触れてこなかったお部屋。
あの部屋しかないだろう。あの人形のお部屋しか。
どうやらわたしたちは、あの、大量のお人形の中から、人形の御主人様とやらを見つけ出さなければならないようだった。
それは、とても――、とても時間の掛かる作業に思えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます