総集編:三千世界・第三部

あごだしからあげ

三千世界・黎明(11)

プロローグ

 ※この物語はフィクションです。作中の人物、団体は実在の人物、団体と一切関係なく、また法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。






 定められた道は終わりを迎えた。これから話すのは、私をそなたの下へ送る牙となる彼が、どうやってここまで来たのか、その過程についてだ。

 ああ……もう間もなくだ。これらを話し終えた頃には、彼は私の下に現れ、そして終わりを与えてくれるはずだ。そなたと無へ回帰し、もはや全てを忘れ去るとしよう……。





 無明桃源郷シャングリラ 第二期次元領域終着点

 淡い月の光に貫かれた黒曜石の聖堂に拵えられた玉座に、狂竜王が足を組んで座っていた。その左右にはエメルと、ホワイトライダーが立っていた。

「……」

 三人は沈黙したまま、眼前の通路の中央に倒れ伏す青年を眺める。

「中々起きませんねえ……」

 エメルが腕を組んだまま、困ったように右手を頬に添える。

「仕方ねえだろ。普通あんな死に方したら二度と蘇れねえ。それでも原型を留めて……まあ、ユグドラシルお気に入りの、14~16歳くらいで成長が止まる機能はお釈迦になっちまったが……だとしても、こうして息を吹き返せる辺りは流石だな」

「え?空の器ってそういう機能があったんですか?」

「ああ。あいつの性質は、誰もが持つ根源的な欲求を刺激し、その欲望のままに力を注ぎ込んでもらうことにある。だから相手が誰だろうと受け入れられる外見である必要があったんだ。つまり、幼く、女性的ですらある容姿とは裏腹に、無尽蔵の精力、性欲を備え、シフルエネルギーを主力とする竜はもちろん、獣やより低次な存在とすら交われる」

「つまり、少年の見た目で、思わず手に入れたくなる魅力があって、それに答えるだけの性欲と精力があるのが、空の器がそうである所以と?」

「そうだぜ。俺が渾の社に行った時に力説されたんだよ、おねショタはショタ側が蕩かされるのもいいけど、姉側が翻弄されるのもいいとかどうとか。一ミリも理解できなかったがな」

「へぇ~。まあ、バロンが最推しの私にはどうでもいいことですね」

 駄話をしていると、狂竜王がスッと右手を挙げる。それで二人は黙り、青年へ視線を戻す。青年は体を久しぶりに動かすかのように、重い動作で起き上がる。

「こ、こは……」

 青年はふらつき、左右に等間隔に並べられた長椅子に寄りかかる。

「目覚めは如何か、空の器よ」

 狂竜王が頬杖をつく。

「あんたは……アルヴァナ、か……?」

 青年は朧気ながらも尋ねる。

「そなたがその目で見た通りだ」

 おどけてみせるが、青年は無視して意識を整え、両の足でしっかりと立つ。

「なんで俺がまだ生きてるんだ。それに、この体は……」

「空の器よ。そなたはまだ、己が選んだ未来の果てに辿り着いてはいまい」

「燐花はどうなった。ゼナは?三千世界は」

「ふむ」

 狂竜王は問いに答えず、足を崩す。

「そなたにはこれから、私の手足となって動いてもらう」

 予想外の言葉に、青年は驚く。

「どういうことだよ。俺は、ユグドラシルの……」

「だが実際にそなたと縁を持った多くの存在は、王龍ニヒロを発端としたものだ。そなたの放つ、その魔性。私たちは利用したくなった」

 狂竜王は玉座の肘置きを、左手の人差し指で叩く。三人の背後から、何者かに押されて車椅子が現れる。

「これは提案ではない、命令だ。だが私もただでそなたにこれから何千、何億、それすらも生温いほどの時間を従ってもらおうとは思わぬ」

 車椅子が月の光に照らされ、それを押していた人物も露になる。

「ハル……アリアちゃん……」

 青年がついて出た言葉を紡ぐ。車椅子に乗っていたのは蒼白色のツインテールのトランジスタグラマーの少女で、車椅子を押していたのは蒼白色の長髪を靡かせる、狐耳の少女だった。無論、青年が言った通り、前者がアリアで、後者がハルである。

 狂竜王が続ける。

「短絡的ではあるが、そなたにはこれが一番嬉しいと思ってな」

 アリアに並ぶように、赤いツーサイドアップの幼女と、目が隠れるほどの長い前髪を持った紫髪の幼女、狐耳の少女、灰色の長髪の女性が現れる。

「使い勝手のいい労働力、それが一番必要だろう?都合のいい時に欲を発散させてくれる……ホワイト、こういうのを人間は何と言う?」

 急に話を振られたホワイトライダーはやや驚くが、すぐに答える。

「セフレとか、性奴隷とか、肉便器とか?俺よりアルメールに聞くべきだとは思いますがね」

「ふむ、それで充分だ。空の器、そういうことだ。彼女たちはそなたの好きなように使ってもらって構わない。これが私の要らぬお節介だと思うのなら、すぐに全員殺せ」

 青年は困惑の表情を示す。

「まあ、そなたが己の律する力が強いのなら、それはそれで構わぬが……空の器として持って生まれた性情、今さら拭えはしまい。では、行くがいい。我が尖兵として、彼の世界へ」

 狂竜王が冷淡に告げ、青年は仕方なく背を向けて聖堂の入り口へ向かう。アリアたちもそれに続くが、青年が扉に辿り着くか否かというタイミングで外から開け放たれる。

「その旅、私も同行させていただきましょう」

 緑髪の豊満な体つきの少女が現れ、その姿にホワイトライダーが警戒感を示す。

「メランエンデ……!」

 臨戦態勢へ突入しそうなホワイトライダーを、狂竜王が手で制する。

「待て、ホワイト。隷王龍メランエンデ、それはどういうことだ?」

「今申した通りですが?」

「そうか。構わぬ。そなたは曲がりなりにもニヒロの隷王龍。戦力としては申し分あるまい。人間の雌としても、基準は大幅に上回っているだろうよ」

「礼は言いませんよ」

「好きにせよ」

 メランエンデは青年の手を取る。

「では行きましょう、私の器様。私の主に、愛こそが正義であると証明するために」

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