第4話 活路、そして騎士としての道。
冒険者は基本、どこかの団体に所属している。たいていは民間ギルドに所属しており、舞い込んだ依頼をギルド長が振り分ける。
対して、国家ギルドは民間ギルドでは収益性の観点から行えないが、民が生活を行う上で必要であると判断された依頼を受け持つ。
俺たちは国家ギルドに所属していた。そこから、勇者となったために王直属の組織へ移った。勇者を解任された現在、俺たちは無所属の状態なのだ。
俺やパリスは別に新しいギルドに入ったり、フリーの冒険者として活動してもいい。しかし、アリアはそれが出来ない。きっとフィールド家に戻され、家の跡継ぎのために政略結婚を迫られるだろう。
それを逃れるためには方法は一つ。フィールド家より地位が高い人物に後ろ盾となってもらうことだ。王でなくとも王族であれば、冒険者を直属の騎士とすることが出来る。シンドバット殿下の騎士となれば、アリアは冒険を続けることが出来るであろう。
「フィールド家からアリアさんを守るためかい。噂通り、君は仲間思いなんだね。アリアさんは冒険を続けたいのかい?」
シンドバット殿下は左手で頬杖を突きながら、アリアの方を向いた。
さすがは大国ヴァルク王国の次期王と言われていた人だ。まるで人の心を読めているかのように振る舞いが上手い。
「確かに、シンドバット様の騎士になれば私は冒険を続けることが出来ます。まだ冒険者であり続けたいです。どうかよろしくお願いします」
アリアは立ち上がり、殿下に深くお辞儀をした。
殿下は少し考える表情を見せ、その後アリアの手を取った。
「わかった。いいよ、騎士に任命してあげよう。しかし、君たち全員は出来ない。アリアさんだけだ。私は今、4人の騎士を持っている。王以外が騎士に出来る人数は5人までなんだよ」
求職活動失敗。
アリアの問題と、自身の職無しという状態を一気に解決しようと思ったのだが、二兎負うものは一兎も得ず。現実はそう甘くはない。(王族の騎士になれば通常の冒険者の10倍の年収を得られるんだけどな……)
「それと、アルス・エタニティのところへはハル君とアリアさんだけで行って欲しい。あくまで、この問題は公にしていない。あまり、目立たずに行って欲しいんだ」
「そうですか。また、一緒に冒険出来ると思ったんですが…」
「まっ、冒険者でいる限りいつかまたどこかで会うだろ」
パリスはパエリアを平らげたようで、機嫌よさそうにそう言った。
「そうですね。私はこれからいつも町の孤児院にいますし、呼んでくださればまたいつでも皆さんと冒険できますよ」
シヴは手を組み、目を瞑りながら上を向いている。
「そういいながら、泣いていては説得力がないだろ」
「泣いていないです!目を瞑っているだけです!」
「シヴはさんは涙もろいですもんね」
「アリアさんまで!違います泣いていません!」
「君たちは、本当に楽しそうだね。一緒に冒険をさせてあげられないのは忍びないけど、いつか僕が王様になったらかなえてあげるよ」
「シンドバット様が王になるまで使えます」
アリアが王に跪いた。
「すっかり、殿下の騎士だな」
「アリアさんのような優秀な魔法使いは、僕にとっても助かります。ではハル君、アリアさん、さっそくお願いします」
殿下は手を机の上で組み、俺とアリアの目をみた。
「えっ、殿下。今からですか?」
「ええ、そうです。言ったでしょう、急ぎの用だと」
目を見て分かる。この人マジだ。
とんでもなく人使いの荒いひとから依頼を受けてしまったらしい。しかも、もう絶対断れない。(まぁでも、師匠も人使いが荒くて、なおかつとっても怖かったからそれよりましか)
「ではハルさん、アルス・エタニティさんのところまで気合を入れていきますか」
「なんでアリアはそんな急にやる気を出せるんだよ!」
殿下の騎士になったとたん、やる気満々だ。
店に入って今後を話し合った時とテンションが違いすぎる。それだけ、冒険を続けられることがうれしかったのであろう。
「頑張ってください」
「頑張れよ、俺もどこかで戦っているからさ」
「ありがとうシヴ、パリス。わかったよ、今から行くか!師匠の下へ」
そう言った途端、認識不可領域が解け、俺とアリアは一瞬で町から南方面へ出る門まで転移させられた。
殿下、認識不可領域と同時に、転移呪文もかけていたな……
初めから、俺とアリアを師匠の下へ向かわせる気だったのか。すべて殿下の手のひらで踊らされていたというわけだ。
まったく恐ろしすぎる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます