リストラ勇者~チート異世界人が召喚されて、勇者を解任されたけど陰で世界を救います。~
琉羽部ハル
第1話 異世界召喚、そして無職になる。
かの偉大な王、ヘラト・ヴァルク王が崩御して1か月が経つヴァルク王国。ヘラト王の子息にして、第二皇子のカムイ・ヴァルク王子が本日新たな王として即位する。
ヴァルク王国の勇者として先代の王に任をうけた俺は、新たなカムイ王にも使えるべく、本日の即位式に仲間と出席する。
日は晴天。降り注ぐ太陽の暖かさと共に、城の広場に集まった民衆の熱気はすさまじかった。新たな王の誕生は、新時代の幕開けを意味している。特に王が統べる王国では、元首が変わると国が変わると言われるように、がらりと国策や暮らしが変わる。そんなため、現状魔族との戦いが停滞していて生活が苦しいヴァルク王国では国民の期待は高かった。
新王を今か今かと待ちわびる民衆にこたえるように、天守の大きな扉が勢いよく開かれた。民は新たな王、カムイ王の姿を一目見ようと天守を見上げる。
豪華な装束を召して、貫禄ある姿で民の前に出たカムイ王は中央の王座に腰かけた。それに続き、王女、皇位継承者たちが次々と横並びに座っていく。俺は、王族の一つ後ろの列、非王族の関係者席に座ることになっている。
「いやぁ、ここまで王族が集まるとさすがに壮大だなぁ」
パーティメンバーのパリス・ブラックは退屈そうにそういった。彼の頭の中は戦いのことしかない。王だとか国だとか、権力だとかにはこれっぽっちも興味がなく、授与式に行くのがめんどくさいという理由で、今まで多くの勲章授与を断ってきた。
「おい、厳粛な儀式だぞ、静かにしとけ」
「はいよ。けどさ、権力に興味の無い俺でも、まさかカムイ王子が王になるとは思わなかったな。てっきり第一位皇位継承者のシンドバット王子が即位すると思ってたぜ」
「そうですね。私も正直シンドバット様が王様になられると思っていましたわ。民からの信頼もありますし、何より他国との交渉が上手ですもの」
パリスの右隣に座っている、これまたパーティメンバーのアリアは、パリス越しに俺を覗き込むようにして話に加わってきた。アリアは名門貴族、フィールド家出身のお嬢様であり、勇者の俺でもなぜ戦いなんかに参加しているのかよくわからない。本人は単に戦いが好きなんです。と言っているが本心はどうだか。
「まあ、だれであれ俺たち勇者パーティは王に使えて、魔族と戦うだけだ」
「そうですね。私たちはただ王家の勇者として成果を出さねばなりません。先代の勇者もそうしてきました」
俺の左に座っている僧侶であるシヴ・アーロイは、まっすぐとそう言った。彼は俺たちパーティメンバーで唯一先代の勇者と交友があった。
新たな王が王座から立ち上がり、民の前へと出た。それまで騒がしかった広場は、一気に静まり返り王の言葉を待った。
「わが父であり、王であったヘラト王は誠に偉大な君主であった。ヴァルク王国の繁栄を第一に考え、国民を思い、子を思っていた。そんな王を私は誇りに思っている」
拍手が王族から起こり、それは民から民へ伝播して、雷が落ちたかのように大きな拍手となった。カムイ王が続く。
「そして、今日私は、父と同じく偉大なヴァルク王国の君主となる。父、ヘラト王の意思を引き継ぎながら、さらに偉大なヴァルク王国の繁栄のために力を尽くす。私の代で魔族との戦いに終止符を打ち、子供たちに戦いの無い平和な世界をもたらすことをここに約束しよう」
先ほどの拍手よりさらに力強い、歓声が飛び交う。
「まずはここで一つ、新たな一歩として異世界召喚を行いたいと思う」
先ほどとはうってかわってどよめきが起こる。異世界召喚という言葉に民だけでなく、王族からも驚きが伝わる。かくいう俺も、驚きを隠せずにいた。
異世界召喚とは、古代から伝わる伝説の儀式である。召喚儀式に成功すれば、名前の通り異世界から強力な力、「チートスキル」を持った異世界人が現れ世界を救うという。
しかし、これはあくまでおとぎ話。絵本に出てくるような話なのだ。
「民よ、少し場を開けてくれ」
どこからとなく、広場に王直属の魔法使いたちが現れ、広場の中央部分が空いた。
「では今から異世界召喚儀式を行う。民たちよ見ていてくれ」
魔法使いたちが円になり、詠唱を始めた。それは、普通の詠唱ではなく古代語で行われたため理解することはできなかった。
魔法陣が形成され、光輝く。広場に降りてきた王がナイフで手の平を切り、血を流し魔法陣の中心に手をついた。その瞬間大きな光と煙、轟音に広場は包まれた。
そうして一人の人間が現れた。
異世界の人間は、予想に反してそれほど奇妙な格好はしていなかった。服はこの世界でも見るような形であったし、背丈も変わらなかった。ニホンというところから来たらしい。初めはずいぶんと驚いていた様子であったが、すぐに落ち着いた様子で「こんなものか」と言った。
彼の国では異世界召喚が良く行われるのだろうか、そう思うほどに落ち着いていた。
「異世界召喚。本当に存在していたのか」
俺は思わず驚きが言葉に出てしまった。
「本当だよ。まったくおとぎ話みてぇだ」
さすがのパリスもこれには驚いたみたいだ。
「しかし、まずいことになったわね」
「そうですね。これは少しまずいです」
アリアとシヴは、緊張した表情で話す。
「何がまずいんだ?」
「目の前にいる召喚されたものが本当に異世界勇者なら、私たちはお役御免、勇者廃業だってことだよ」
パリスがのんきな顔で俺の前にかぶさる。
勇者は国に一人、基本的には勇者が殉職したら、勇者候補生の中から王が力を見て任命する。
しかし、今の流れからすると新王カムイ王は異世界人に勇者の称号を与えるだろう。(俺死んでないのに)
そうなれば俺は……「リストラか」
後日、俺は王に呼び出され、王国から貸し出されていた勇者の剣と共に勇者の称号をはく奪された。
晴れて俺は、勇者から元勇者(無職)になったのだ。
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