第42話『訣別、急襲』

 悲痛な表情で相対する凪へと、ディエスは薄く笑いながら声を返す。


「説明も何も……全部解ってるから、僕の呼び掛けに応えてくれたんだろう?キミを迎えに来た理由も……僕がやって来た事の意味も」

「解るわけない……解りたくなんか……ない……!!」




 東帝学園に籍を置く凪と、刻印結社に属するディエス。かつて訣別した二人の過去を紐解くには――――7年前に遡る必要があった。




 ◇◇◇











 ――――物心ついた頃には既に、『研究所』という自身を取り巻く異質な環境を"彼女"は受け入れていた。


 誘拐されるより以前、自分にはどのような家族が居たのか。どんな暮らしをしていたのか、何も思い出す事が出来なかった。唯一残っていた記憶は、『更科 凪』という名前だけ。




 日々繰り返されるのは、自分達『被験者』へ"移植"された『術式』の"機能訓練"。与えられた力を上手く制御出来ない子供達も多かった中で、凪は魔術を操る己の才能を幼いながらに自覚していた。




 そして彼女には、そこで出会った一人の友人がいた。




『――――凪。今日のプログラムはもう終わったの?』


 施設の図書室の隅で転た寝しようとしていた彼女へ、一人の少年が声を掛ける。


『ん…………あんたまた抜け出して来たの?いい加減にしないとプロフェッサーに見つかるよ――――ユウ

『大丈夫だよ。僕、優秀だから。怒られたりなんかしないし』


 凪へと笑い掛ける彼の名は、宵野ヨイノ ユウ。彼女と同様に『術式移植手術』を施された、『被験者』の一人だった。




 人よりも強く、畏るべき力をその身に宿していた凪。そんな彼女にとって幽は、初めて心を許せた『友達』で――――側にいてくれる『家族』だった。




 未来の見えない、この『箱庭』に囚われていても。彼さえ隣に居てくれれば、幸せだった。ずっと一緒にいられると、そう信じていた。




 二人の運命が動き出す、"あの日"までは。




 ◇◇◇






『もう大丈夫だ。お前達を――――助けに来た』


 凪と幽の"日常"は、突如として終わりを迎える。




 7年前に決行された、魔術師協会七大支部による合同作戦。


 協会に属する魔術師達によって構成された少数部隊が、拉致・監禁されていた被害者達を救出すべく『研究所』へと突入した。




 凪や他の子供達を助け出したのは、刀を担いだ威容を誇る老年の男。日本支部支部長『鬼龍院 王我』は、研究所内の敵対者を次々と吹き飛ばし薙ぎ倒していた。




『龍臣はギデオンの班と合流して最深部に急げ。保護はクリス達に任せればいい、お前らは制圧最優先だ』


 王我が矢継ぎ早に指示を飛ばす中、研究所各所での爆発による振動がここまで伝わって来ている。しかし凪は、何故か幽の姿が見えない事に言い知れぬ不安を覚えていた。


『ってオイ、ちょっと待てちっこいの!!』


 そして王我の制止の声も聞かず、凪は研究所の奥へと駆け出して行く。今彼を繋ぎ止めていなければ――――もう二度と、会えなくなってしまうような――――そんな漠然とした、不穏な予感に駆られていた。






 走る。


 必死に幽の姿を探すが、彼の気配すら何処にも感じない。




 しかし、その時。




 燃え落ち崩れつつある廊下の向こうに――――こちらに背を向けた、一人の少年の姿が見えた。


『っ、幽!!』


 咄嗟に叫んだ凪の声に反応し、瓦礫の向こう側で幽が振り返る。


『やっと見つけた……早く、逃げよう……!ここも危ないよ……!!』


 僅かに安堵したような表情でそう呼び掛ける凪だったが、幽の口から告げられたのは彼女の予想に反する言葉だった。




『…………ごめん。僕は…………行けない』

『……っ!?なんで……!!』


 幽の返答に動揺を隠せない様子の凪だったが、彼は感情の読み取れない声で言葉を続ける。


『僕は……凪と一緒には、いられないんだ……そっちには、行けない』

『だから、なんでよ……そんな事言われても、意味わかんないよ……!!』


 見えないその真意に凪が焦るように声を上げるが、幽の仄暗い表情に変化は無い。そしてその間にも、火の手は彼女達のすぐ近くまで迫って来ている。




『だったら――――だったら、私もここに残る……!!幽を置いていくなんて……私だけで逃げるなんて、嫌だ……!!』


 必死に凪はそう言い放つが、それでも幽の意思が変わる事は無かった。


『それでも……ダメなんだ。……ごめんね』




 そして凪に背を向け、ゆっくりと暗闇の中へと歩き始める。


『いつか…………僕を、迎えに来てよ』


 彼女にだけ聞こえるようにそう声を零すと同時に――――幽の姿は、炎の壁に覆い隠された。




 凪もまた爆発に呑み込まれようとしていたが、その瞬間。




 爆炎が彼女に届く寸前、突如として一人の影が現れる。その男は凪を抱き上げると同時に、目にも留まらぬ速度で掻き消えるようにその場を駆け抜けた。




『――――あっぶなかったなァ。……大丈夫か?』


 魔術による超高速移動で凪を救い出したのは、サングラスを掛けた黒髪の人物。『桐谷 恭夜』と名乗った青年だった。




 そして――――




 ――――完全に崩壊した研究施設から、宵野幽が発見される事は無かった。




 ◇◇◇




 それから6年後。




 救出され保護された凪は、日本の魔術都市で暮らしていた。


 数年の月日が経って尚、忘れる事が出来ない空虚な傷跡。伸ばした手を拒絶されたという事実は、彼女の心の片隅に未だ暗い影を落とし続けていた。


 そんなある時、魔術界に一つのニュースが届く。




 魔術犯罪組織『刻印結社』に属していると思われる、新たなテロリストの出現。その"少年"は、強大かつ凶悪な術式を有しており多くの民間人を殺害していた。


 瞬く間にその情報は魔術都市を通じて、全世界の魔術師へと知れ渡る事になる。しかし、凪はその真偽を深く探ろうとは思わなかった。




 ――――信じたくなかった。"彼"と同じ術式チカラを持つ人間が、残虐非道な魔術犯罪者と成り果てているという事実から、必死に目を背けていた。




 1年後。




 それでも、残酷な運命は決して止まる事は無く。




『久しぶりだね――――凪』




 再び彼女の前に現れる。




 ◇◇◇




「なんで……なんで、テロリストなんかになってんのよ……!!アンタはそんな、最低な人間じゃなかったでしょ……もうやめてよ、こんな事……!!」


 溢れ出す感情をぶつけるように彼を問い糺すが、凪の言葉を受けて尚ディエスは微かな笑みを浮かべたまま。


「悪いけど……理屈じゃないんだ。もう決めた事だからさ。僕達は――――この世界を、壊す。その為に、僕はこの力を受け取ったんだ。……自分の意思でね」


 その意思は変わらないように見えたが、不意にディエスは真っ直ぐに凪と向き合い口を開く。




「だけど…………凪だけは、僕のそばに居てほしい」

「……え……?」


 突然の言葉に、思わず声を零す凪。




「あの頃からずっと……僕にとって、大切な存在だから。例えこの世界が壊れても……凪にだけは、幸せでいてほしい。僕が守るから……一緒にいてほしいんだ」


 そう言って手を差し出した幽の笑顔は――――あの頃と変わっていないように見えた。




「ふざけ、ないでよ……私は、あんたと心中する気なんか……」


 拒絶しようとする凪だったが、思うように言葉が出てこない。




 どれだけ望んでも、取り戻せない筈だったあの日々を想う。ずっと追い求めていたその手を――――彼女は振り払う事が出来なかった。




「私は――――」












「二人共その場を動くな」


 その時。




 鋭い警告と共に、こちらへ銃を向けた一人の男がその場に現れた。


 黒のスーツを身に纏った、桔梗色の髪の青年。管理局の魔術捜査官、北斗 玲王の姿がそこにはあった。そして彼の背後には、術式付加装甲服アーマースーツに身を包んだ魔術管理局の戦闘部門『武装部隊』が、自動小銃アサルトライフルを構え控えている。


 更に彼等のみならず、別のニ方向からも姿を現す二人の捜査官。北斗と同様のスーツを纏った沢村 秀一と速水 流星が、それぞれ武装部隊を率いて凪とディエスを取り囲んでいた。


「……『番号刻印ナンバーズNo.4フォー』、ディエスだな」


 銃口を向けたまま、最大限の警戒と共に北斗が開口する。しかし魔術師の集団に包囲されながらも、ディエスの表情に焦りは見られない。




「更科凪ちゃん……だね?キミが何故特級の魔術犯罪者テロリストと内密に接触していたのかはともかく……まず一つ。キミにはある“容疑"が掛けられている」


 一方速水は冷静な口調で、凪へと問いを投げかける。




「ある一般女性からの証言でね。……7月5日の23時から0時に掛けて、池袋と新宿の二ヶ所で東京23区内の学生の目撃情報があった。そしてもう一つ。翌未明、学習院下通りのガード下で意識不明の獅堂が発見された……と」


 そして速水の言葉を引き継いで、沢村が彼女へ向けて淡々と言い放った。






「動機に関してはさっぱり不明だが……更科凪。お前には今、殺人未遂の容疑が掛かってる」


 状況証拠から鑑みて、魔術捜査課が導き出した一つの推察。


 姿を消しての犯行を可能にする、『隠密術式』の能力。柊の知人が偶然目撃していた、その『学生』と特徴が一致する人物。そして捜査線上に、一人の少女が浮上した。




 ――――目的は不明だが、更科 凪は大文字 獅堂を殺害しようとした可能性がある。





「同行を拒むなら……こちらも相応の手段を取る」


 強硬な態度を崩さない北斗。しかし彼と対峙する凪の様子に、何故か異変が生じ始めていた。




 頭の奥深くに走る、鈍い痛み。記憶を辿ろうとする程に、謎の疼痛は悪化していく。


「う、ぁ…………私、は…………」


 その小さな異常に一早く気付いたのは、彼女に最も近い位置にいたディエスだった。


「凪……?どうし――――」


 しかし彼が頭を押さえる凪へと一歩踏み出した瞬間、北斗が躊躇無く拳銃の引鉄を引いた。放たれた銃弾は、ディエスの頬を僅かに掠める。




「動くなと言った筈だ」

「チッ…………」


 有無を言わさぬ北斗の牽制に、舌打ちを漏らすディエス。


 恐らく管理局は凪の連行よりも、ディエスの拘束を優先している。――――ならば、この状況を打破する手段はただ一つ。




「だったら仕方無い……強行突破だ」

「やっぱこうなるか……!!」


 ディエスの指先が僅かに動くが、それより速く沢村が魔術を発動する。




 無属性魔力×形成術式


ブラスト


 驚異的な速度で撃ち放たれた魔力の弾丸が迫るが、ディエスはその一撃を見向きもせずに掴み止めた。そしてもう一方の手に、蠢き揺らぐ暗色の魔力を収束させる。


 この場で武装部隊を率いる三人の捜査官の内、最も脅威度の高い『敵』をディエスは即座に見極めていた。


「まずは……アンタから消す……!!」


 そして狙いを定めたディエスは、左後方の沢村達へと狙いを定め魔力の奔流を炸裂させる。




「ッ!!クソ……!!」


 一方で沢村より僅かに遅れながらも、北斗もディエスの攻撃に反応した。グリップのレバーを瞬時に切り替え、再度トリガーを引く。


 北斗の拳銃には実弾発射の機能に加え術式付加機構が搭載されており、放たれたその弾丸には被弾者を捕らえる『バインド』が付加されていた。






「沢村隊長ッ!!」

「バカ、退避しろ!!」


 襲い来る膨大な魔力の波に対し、隊長の沢村を守るべく数名の武装隊員が前方へと飛び出す。しかしディエスが放った"異質"なエネルギーは、地下駐車場のアスファルトを一瞬にして"削り剥がし"、武装部隊が展開した魔力盾シールドをも"喰い潰した"。


 万物を"崩壊"させるかのような脅威が、沢村達へと迫っていたが――――




 ――――その時、一人の少年が彼等の前に躍り出る。




「徹彦!!」

「グッ、ヌ……!!!!」


 包囲部隊の後方にて待機していたその少年、古田 徹彦は咄嗟に飛び出しディエスの攻撃と激突した。彼が全身に纏う『絶対防御』の術式は、その実態不明の魔力をも防ぎ止める。




 そして北斗が撃ち込んだ『拘束術式付加弾バインドバレット』は、死角からディエスへと迫っていた。しかしその銃撃に対し、動きを見せたのは――――凪だった。




「っ、く……」


 頭の奥底の痛みに耐えながら、地を蹴りディエスへと駆け出す凪。そして彼女は右脚を振り抜き、蹴りで北斗の弾丸を迎え撃った。


 着弾と同時に付加されていた術式が作動・展開し、魔力の帯によって拘束された凪が地面に倒れ込む。


「っ、凪……!?」

「何のマネだ……!?」


 背後で自身を庇った凪にディエスが瞠目し、北斗もまた彼女の予想外の行動に動揺を隠せずにいる様子だった。しかし錯綜するその状況下で、戦闘を完全に俯瞰して動いていた人間がいた。




「――――今だ、結城君」


 徹彦による防御、凪の想定外の行動。場が乱れ生じた一瞬の隙を、速水の眼は逃さず捉えていた。そしてその指示に即座に対応したのは、卓越した技術を持つ空間操作術式使いテレポーター


 ディエスが徹彦や北斗に注意を向けたその一瞬で、結城 結弦は転移テレポートによって凪の身柄を確保していた。


「速水さん、今です!!」


 結城が気絶していた凪を抱え上げその場から離脱したのを確認すると、速水は高速移動で一気にディエスへと距離を詰める。そして接近しつつ抜き放った長大な太刀を、渾身の力で叩き付けた。




「オイ……殺す気かよ…………!!」


 振り下ろされた刃を黒い魔力で防御しながら、ディエスが速水を睨み付ける。


「キミらは国家に仇成す大罪人、『表』の法に守られない事なんざ百も承知だろうに。魔術師僕等は危機を排する為なら手段は選ばない。……抹殺も、止む無しだ」

「舐められたモンだな……!!」


 恐ろしく冷徹な声でそう告げて来る速水を、ディエスは再び魔力を炸裂させ強引に押し返した。




「……僕等に与えられた『番号刻印ナンバーズ』の名前は、おたくら協会のS級ランカーと同格の力を持ってるって意味だ。アンタらは自分達だけで、あの辺の連中を相手取れるとでも思ってんの?」

「何だ、見通しが甘ェとでも言いてェか小僧。大人ってのはな、上から命令されりゃ無理でも何でもやるしかねェんだわ。組織ってのは理不尽だよなァ全く」

「……そうか……」


 依然として余裕を見せるディエスへと、沢村が淡々とした声を返す。速水や北斗、結城に徹彦もまた油断無く再び包囲網を形成しようとしていたが、その時ディエスは不敵な笑みを零した。




「これから起こるのは……その傲慢が招いた結果だ」


 その瞬間。凄まじい衝撃を伴った轟音が、地下駐車場に響き渡った。




「ッ、何だ……!?」


 突然の出来事に北斗達は僅かな焦りを見せるが、沢村はすぐさま何が起きたのかを察知しインカムへと叫ぶ。彼の予想が正しければ、轟音と振動の発生源は恐らく――――




「地上班、何があった!!応答しろ!!」




 ◇◇◇




帯刀ワキさん!!」


 叫ぶ本郷達の頭上を吹き飛んで行くのは、A級魔術師の実力を有している筈の捜査官。


 突入班のバックアップとして地上にて待機していた管理局の部隊は今、一人の魔術師による急襲を受けていた。


「なんで"アレ"がココに……!?」


 睨む柊の視線の先にあったのは、武装部隊を単身で次々と蹴散らす圧倒的強者の姿。装甲車は炎上し、建造物は破壊されている。


 突如としてその場に現れたのは、魔術界に『暴君』の悪名を轟かせるテロリスト。刻印結社の"番号刻印No.5ナンバーズファイブ"、『バスター』だった。




「ハハハハハ!!この国の魔術師はこんなモノか!?」

「クソが……援護しろ俊哉!!」

「マジでるんスか……!!」


 力の限りを尽くし暴れ回るバスターを制圧すべく、本郷が真っ向から突撃を仕掛けその後方で柊が術式を展開する。




「ほう……俺に向かって来るか。その意気や良しッ!!」


 突進して来る本郷に対して、バスターは膨大な魔力を右腕に纏わせ迎え撃つ。隆々とした肉体から放たれるのは、暴風をも巻き起こす豪快な一撃。




 無属性攻撃術式


衝王拳ショウオウケン




 バスターの持つ特殊魔術アビリティマジック衝撃インパクト術式フォーミュラ』によって、爆発的威力を得た拳の"圧力"が本郷へと襲い掛かる。


 咄嗟に防御の構えを取るが、その一撃はガードの上から易々と本郷を吹き飛ばした。防護術式を施されている筈の特殊スーツの左腕部分は跡形も無く消し飛ばされ、魔力で強化した頑健な肉体にまでその衝撃は到達する。


「正さん!!」


 柊が叫ぶ中、吹き飛ばされた本郷は崩落した建物による瓦礫へと突っ込みようやく停止した。




「クッ、ソが……」


(一撃で、折れた……!!)


 起き上がりつつ悪態を吐く本郷の左腕は、バスターの剛拳を受け完全に折れていた。片腕が使い物にならない状態で番号刻印を相手取るなど、最早自殺行為に等しい。


 相手の規格外の攻撃能力に戦慄する本郷だったが、彼の左腕へと後方から柊が魔術を投射する。『バインド』の応用と思われる魔力の帯は、本郷の腕へと巻き付き患部を整形した。




『一応固定しましたけど、あくまで応急処置っス。治したワケじゃないんで、出力は抑えてくださいよ』

「あァ、何も無ェよりはマシだ……!!」


 インカムからの柊の声に応えた本郷は、再びバスターへと距離を詰めるべく駆け出して行く。




 戦場と化した街に、激突音が響き渡った。




 ◇◇◇




『「刻印結社」の「バスター」の出現により地上にて待機していた第四・第五武装部隊が壊滅!!現在本郷・柊の両名が交戦中です!!』

「何がどうなってんだよ……!!」


 通信共有デバイスからの叫ぶような報告を受け、混迷する状況に焦りを見せ始める結城。一方で現場を指揮する三人の捜査官は、最早事態は一刻の猶予も無い事を感じ取っていた。



「……僕は右から仕掛けるよ」

「了解です」


 そう言葉を交わし再度長刀を構えた速水と、拳銃を収め手元に刀を召喚した北斗が同時に走り出す。疾走する二人は挟撃を仕掛けるべく、左右から全く同じタイミングで斬り掛かった。


 無属性攻撃術式


『一刀流・飛燕ヒエン


 無属性攻撃術式


星剣セイケンカイ


 同時に攻撃魔術を発動する、極めて高度な連携戦闘。しかし双方向からの剣撃を前にしても、ディエスが不敵な笑みを崩す事は無かった。




 繰り出された双撃は、ディエスへ届く寸前で"止まる"。




「「!?」」


 指先一つすら、動かせない。




 それは――――"理"へと手を掛ける禁忌の力。


』。




 その場に新たに姿を見せたのは、一人の美女だった。


 刻印結社の最高幹部、その一人。彼女の名は――――




「間に合ったみたいで良かったわ」




 ――――"番号刻印No.8ナンバーズエイト"、『クロック』。



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