第9話『Black Beast -黒き猛獣-』

「獅堂?あいつフツーにいいヤツだったぞ」


 非公式の決闘で日向があの大文字獅堂相手に引き分けたという噂は、どこから漏れたのかすぐに学園中に広まった。同級生達は興味津々といった様子で取り囲んでいたが、当の日向はケロリとしており普段と何ら変わらない様子である。


 彼等だけでなく伊織や天音、啓治や沙霧も含めた一年生達は今、制服から訓練用の体操服ジャージに着替えた状態で演習場へと集められていた。


「それにしても春川君、凄いよね……毎日何かしらの事件に関わってるし……」

「アレは巻き込まれてるんじゃなくて、アイツ中心に騒ぎが起きてんのよ。ホント、よくやるわ……」


 波乱な学園生活を送っている日向に、純粋に驚いている沙霧と完全に呆れている天音。


「でも注目度で考えたら、生徒会にスカウトされたりもしそうじゃない?風紀委員会にも、かなり変わってるけど実力だけで選ばれた人達がいるらしいし……」

「まァ、あの副会長あたりなら面白がってやりそうだけどね……話題性と戦力があっても、あんな"爆弾"抱え込むデメリットがデカすぎるでしょ。持て余すに決まってる」

「それは確かに……」


 日向を飼い慣らせる人間など、この学園に居る筈がないという天音の私見。


「あーユキカさん達のトコのやつ?こないだ食堂でメシ食ってたらあの人ら来たぞ?勧誘」

「え!?」

「は!?」


 そんな会話をしていた二人へと、いつの間に人混みから抜け出していた日向が何の気なしにそう告げた。驚愕する沙霧と天音に、日向は更に続ける。


「まーメンドくさそうだったからフツーに断ったけどな!あっはっはグホッ、えっ、なんで……!?」


 自分の事は呼び出しておきながら日向には直々に会いに行ったという雪華の行動に、天音は少しだけ腹を立てていた。ただそれをわざわざ口に出すのも癪なので、爽やか畜生スマイルで大笑いしていた日向の脇腹を肘打ちでど突く。


 倒れ伏し悶絶している日向を見下ろしながら、啓治は思案するように顎に手を当てていた。


「コイツで引き分けなのか……『学園三強』などと担がれてはいるが、思いの外大した事もないらしいな。その大文字とやらは」

「フン……まァ安心しろ。テメェじゃそもそも相手の土俵にも立てねェからよ」

「……あ?」


 啓治の言葉を聞いていた伊織からの挑発に、すぐさま超至近距離での睨み合いへと移行する二人。


「不良軍団のNo.3にギリ勝った程度で調子に乗ってんなァコラ」

「ハッ、偉そォなコト言うならまずはオモチャみてェな武装無しで日向アイツに勝ってからにするんだな」

「ンだとテメェから今すぐこの場でブチのめしてやろォかこのカスが」

「出来もしねェコト言ってんじゃねェぞタコが真ッ二つにされてェかテメェ」


「あ、天音ちゃん……」

「ほっとけばいーのよ。アレは逆に仲良い証だから」


 最早犬猿の仲という言葉でも片付けられない程に、伊織と啓治は気が合わないようだった。殺伐とした雰囲気を撒き散らしながら啀み合っている二人に、沙霧は心配していたが天音は全く関心を持っていない。


「ハイハイそこまでやで。メンチ切り合うにしてもこんなトコでやらんでもええやろ〜、皆んな怖がってるやんけ。ちょっとキミらガラ悪すぎんねん」

「ッ、一文字か」

「……誰だお前」


 その時、今にも殴り合いを始めようとしていた二人の間に割って入る一人の少年がいた。緑色の髪と細い糸目が特徴的なその少年は、どうやら啓治とは以前からの知り合いらしい。


「ボクはC組の一文字陣。キミとは初めましてやね、御剣伊織クン。ヨロシク」


 その人物、一文字イチモンジ ジンは関西弁で伊織へと話し掛ける。


「キミとそこにおる春川クン、こないだボクのクラスのコが絡まれとるトコ助けてくれたらしいやないの。ボクが言う事とちゃうかもしれんけど、ホンマおおきにな。あの子も感謝しとったわ」

「あー、あん時のか……まァ、気にすんな」


 あれだけ険悪な空気を放っていた伊織だったが、陣から厚く礼を述べられ毒気を抜かれたような表情になっていた。


「……コイツがアンタの言ってた情報通ってヤツ?」

「ああ、そうだね。まァ悪い奴ではないから、警戒はしなくていいよ」


 天音の小声の質問に啓治が答えていると、それに気付いた陣がそちらへも笑顔を向ける。


「学校の中のウワサに関してやったら、何でも聞いてもらってかまへんで。まァ今はもっぱら、キミら五人のハナシで皆んな持ちきりみたいやけどな」

「私達の……?」

「せやせや。今日の試験、センセー方も期待しとるみたいやで」

「ちょっと待て……試験……?俺なんも勉強してねーんだけど……」

「つーかオマエはいつまで寝てんだ」


 沙霧は驚いていたが、彼女ら五人が一年の中でも特に注視されていると教える陣。その言葉通り周囲の生徒は、学年屈指の実力者達に興味を示しているようだった。一方で陣の言葉の一部に寝転がったまま反応する日向だったが、伊織に蹴り起こされようやく立ち上がる。


「やーあやァ、よく来てくれたなルーキー諸君」


 その時、何も無い筈の空間から突如として姿を現す一人の人物。東帝学園の教師たるその男、桐谷 恭夜は魔術を用いて派手に登場するとこの場に集った生徒達を見回す。


「そこの腹が痛そうな日向然り、何で朝っぱらからこんなトコ来てんのかわかんねーって顔のヤツがちらほら見受けられるなーァ」

「うん、なんでだ?つーか試験って何のコトよ?」


 追試とかねーよな?と脇腹をさすりながら聞いて来る日向に、ニヤニヤとした笑みを向けている恭夜。


「オメーの大嫌いな筆記じゃねーから安心しろい。……今日は皆大好き、魔術の実践演習だ。それもタダの演習じゃねェ、各々が別のメニューに取り組んでもらう」

「別メニュー……?」

「そうだ。お前らが入学前に受けた能力測定、覚えてるか?アレには試験として不適格な部分が一つあったんだ。誰か分かるか?」


 天音の疑問の声に応えながら恭夜は、『能力測定』について言及しその問題点を問う。それに対して回答すべく、口を開いたのは啓治だった。


「それぞれの生徒独自の特殊技能を評価する項目が無かったコト、か……?」

「その通り!イイ着眼点だ、冴えてんな啓治」

「ま、当然ですかね」

「ケッ」


 恭夜の意図を読み取り得意気な啓治に、不愉快そうな目を向ける伊織。


 能力測定はあくまで基礎能力を測る事に重きを置いていたため、各パラメータがバランス良く高い程評価されやすい傾向にあった。逆に一芸に特化した術師は得点を取り難いものになっていたが、今回の演習では画一的な採点基準が廃止される。


「例え全能力がオールラウンドに優れていようと、確固たる固有能力強みが無ェヤツはこの先通用しねェ。今日オマエらがやるべきコトはもう分かったな?


 ――――魔術師としての自分だけの武器オリジナリティを示せ」


 魔術の種類は千差万別。人の数だけその性能は異なり、一つの型に嵌まる事は無い。己だけの価値を示せと、恭夜は一堂に会した学生達へと呼び掛けた。


 ◇◇◇


「ほんなら、お互いベスト尽くそうや。また後でな」

「おーう。じゃーな、陣」


 陣と日向は一言そう交わすと、それぞれの試験が実施される場所へと歩いて行く。直前まで六人で談話していたが、日向・伊織・啓治と天音・沙霧・陣はそれぞれ三人ずつ同じグループに振り分けられたようだった。


「コレどういうカンジで分けられてんだろうな」

「大方、術式の『射程』だろうな」


 グループ分けの基準について日向が疑問を発するが、それに啓治が応える。彼の予想通りその基準は、用いる魔術が効果を及ぼす影響範囲射程距離だった。


 日向や啓治のような身体強化によって近接戦闘を行う者達、そして中・遠距離攻撃を武器とする天音や後方支援を得意とする沙霧。言われてみれば確かに、その規則性パターンは分かり易い。一人一人の能力に適したメニューが課されると恭夜は言っていたが、どのような物かと話し合っている内に日向達の演習区画へと到着する。


 そこには何故か、オーバーサイズの上着を着込み大の字で爆睡している小柄な少女がいた。


「え……何してんだコイツ……」

「おォーイ、生きてっかー!」

「退いてろバカ共。お嬢さん、こんな所で寝ていては風邪を引かれますよ。如何されました?」

「……んぁー……もう、朝……」


 三人から声を掛けられ、灰色の髪を持ったその少女は眠そうに床から起き上がる。かなりブカブカだが日向達と同じジャージであり、東帝の一年生であるという事だけは確かだった。


「恭夜さんに……『オマエは絶対寝坊するから、朝までココで寝とけ』って言われてさー……」

「マジかよ……最低すぎんだろあの人」

「別に……あたしはどこでも寝れるからいーけどね……」


 目的地で一晩中寝て待たせるという、恭夜の鬼畜ぶりにドン引いている伊織。しかしその少女は事も無さげにそう言うと、ポケットから取り出したゼリー飲料を一瞬で吸い尽くしていた。


 ◇◇◇


 演習場各所で、一年生達は遺憾無くその実力を発揮している。その姿を別室からモニターで審査している、五人の"試験官"。


「へェ……見所ありそうなのが何人かいるじゃない」

「だろ?今年の一年は最近でも特に有望な世代だよ」


 そう口にしたのは、眼鏡と白衣が特徴的な女性冴羽サエバ レイだった。彼女は東帝学園にて、魔術科学や術式理論を担当する講師である。


 冴羽の発言に恭夜が応えると、その横で同じくモニターを見ていた万丈 大和が口を開いた。


「……にしても、高次訓練に参加させる一年を選抜する為にここまで大掛かりな演習を企画するとは……よく神宮寺学長を説得出来たな」

「まァね。ムチャ言ってる自覚はあったから、ソコんトコは俺も頑張ったわ」


 東帝の主任教員を務める彼からの言葉に、僅かに苦笑する恭夜。


 今回の大規模演習を本来の授業計画を変更してまで実施した事には、ある理由があった。それは7月に行われるニ、三年主体の『高次魔術訓練』に、例外的に参加させる一年生数名を選抜する為。そして学園長である澄香から提示された条件は、恭夜を含めた五人の教員によって技能試験の形で彼等の力量を見極める事だった。


「ま、澄香さんを納得させられたのは、一年の皆がこうして優秀だったからってのもデカかったね」

「……アンタそんな謙虚な事言える人間だったんだ」

「俺そんなに人でなし自己中だと思われてんの?」


 冴羽からの皮肉に苦い顔をする恭夜だったが、今度はカーディガンを羽織った女性から声を掛けられる。


「でも、得意な分野を披露してもらうって凄く良いアイデアだよね。今後の授業計画カリキュラムにも生かせそうだし」

「そゆトコ気付いてくれる楓さんホントすき」


 恭夜の軽々しい言葉を笑顔で聞き流す彼女の名は、篠宮シノミヤ カエデ。医療魔術を操る養護教諭として、東帝学園の医務全般を担っている。


「お前はどう思う、久世」


 最後に万丈から意見を求められたのは、これまで沈黙を守っていた白色の髪の青年。


「うん……七人、かな……」


 魔術技能指導員を務めるその人物、久世クゼ 宗一ソウイチは長い前髪の隙間から青色の瞳を覗かせつつそう言った。彼の見立てに同意するように小さく頷きながら、恭夜は映像を切り替え七人の生徒を映し出す。


 そこには、彼等一年生の中でも際立って高い能力を持つ者達の姿があった。






 まず一人目は、唯一無二の能力である剣術のみで他を圧倒する少年。


「クソ……フザケたコト考えやがって……!!」


 伊織はメニューを考えたと思しき恭夜へ悪態を吐きながら、全方位から迫り来る無数の魔術を尽く斬り裂く。彼に課されていたのは、『一発でも被弾したら即失格』。しかし周囲の生徒から放たれる全ての術式は、その刃に捌かれ伊織へ届く事はない。


「退魔一刀流・『富嶽フガク』」


 上空から降り注ぐ魔術が、斬り上げられた一刀によって両断され弾け飛ぶ。


【御剣伊織】

 学年『4位』(SWP:1672点)

『学園全体で見ても随一の近接戦闘能力を持つ。また座学成績も非常に優秀であり、第一学年の主力として申し分無し。』




 次は、演習場から離れた場所にて工具を手にしている少年。


「何故俺がこんな地味なタスクを……」


 そんな言葉を口にしながら啓治は、次々とやって来る生徒達から魔術兵装を受け取っている。啓治へ課せられたのは戦闘に関するメニューではなく、『魔術兵装の即時整備・高速修理』だった。


「皇!魔力弾が詰まっちまって制御出来ねェ!頼む!」

「おォソコ置いとけ、2分で仕上げといてやる」

「皇君!私の剣から魔力が全部漏れちゃう!」

「それは大変だ!任せてくれ、すぐに直して見せるよ。あ、銃はやっぱ5分後になるわ」

「俺の方が先に言ったんですけど!?」


 演習から一時離脱して来た生徒達が代わる代わる彼へと修繕を依頼するが、その全てを流れるような作業速度で的確にこなす凄まじい技術力を見せる。


【皇 啓治】

 学年『5位』(SWP:1597点)

『高い格闘能力を有するが、魔術工学分野にも長けている。優れた知識と技術を持った貴重な人材。』




 そして、中距離にて魔術による射撃戦を展開する二人。


「ハッハァーッ、流石やね沙霧チャン!」

「まだまだ、です……!」


 無属性魔力×形成術式


バインド』&『ブラスト


 陣が魔力によって生み出した拘束帯を沙霧の右脚へと絡み付け、更に追撃の魔力弾を撃ち放つ。しかしそれとほぼ同時に、沙霧も術式を発動していた。


 水属性魔力×形成術式


流盾フローシールド』&『水戟槍群アクアスピアーズ


『流動』の性質を付加された魔力障壁が弾丸を受け流し、反撃の水属性の槍が陣へと撃ち込まれる。


「どぉわッ!!さっきから中々エグい攻撃して来るやんけ……!!」


 慌てて回避行動を取る陣だったが、躱し切れない数発は咄嗟に展開した魔力の盾で防御していた。撃ち合いの間合いを主戦場とするタイプの二人に提示されていた課題は、見ての通りの『乱射戦』。戦況は火力に長けた沙霧が優勢を保ちながらも、手数と手札に長けた陣にのらりくらりと流され押し切れない様子である。


【空条 沙霧】

 学年『6位』(SWP:1544点)

『高度な障壁形成術を持ち、防御能力に優れている。攻撃術式もレベルが高く、能力バランスが良い。回復術式の使い手。』


【一文字 陣】

 学年『16位』(SWP:1066点)

『場面に応じて多種多様な魔術を使い分ける、非常に高い対応力と状況判断力を併せ持つ。訓練で手を抜きがちなため注意が必要。』




 一方で、『近接戦』をフィールドに身体強化で戦う二人。


「くっそー、また消えやがった!どこだァ!」

「――――ここだよ」


 叫ぶ日向の背後から、突如姿を現した灰色の髪の少女が峰打を炸裂させる。1-Fクラスに所属する彼女の名前は、更科サラシナ ナギ。訓練用のナイフを手先で弄んでいるその少女は、『姿を消す透明化』能力である特殊アビリティ魔術マジック、『隠密ステルス術式フォーミュラ』の使い手だった。


「こんな強ェヤツがまだいたとは……やっぱこの学校は面白ェな!!」

「ふふん、セケンの広さをおしえてあげよー」


 体勢を崩し突っ伏していた日向だったが、楽しげな表情と共に起き上がると再度凪へと挑み掛かる。対して凪もまたそれに応えるように、小さく笑いながら地を蹴り迎え撃つ。


【春川 日向】

 学年『7位』(SWP:1502点)

『高い潜在能力を秘めるが、精神状態に実力を左右されやすい。また学業の成績が最悪であり、厳重指導が必要。』


【更科 凪】

 学年『10位』(SWP:1201点)

『学年中一人だけの特殊魔術持ち。高速移動と併用するといった工夫を自ら考え出すなど、独創性にも長けた逸材。』




 しかし、その中でも一際強大な存在感を放つ少女がいた。


 雷属性魔力×形成術式

雷建タワーバースト砲塔・ライトニング


 全身から爆発的な魔力を立ち昇らせていた天音は、その全てを収束させ一気に天へと解き放つ。『最大出力での魔力放出』。彼女の能力の高さを理解しているからこその、端的に提示された恭夜からの課題で天音は十全に実力を発揮していた。


 轟音と衝撃を伴い放たれた砲撃は、さながら天を衝く雷の塔。その光景から、彼女が一線を画した圧倒的な才能を有している事は明らかだった。


【藤堂 天音】

 学年『1位』(SWP:2037点)

『八つの属性性質と膨大な魔力を持つ。歴代最高峰の能力値を誇り、その実力は学生の規格レギュレーションを凌駕している』






「A組とB組の五人はいいとして、残りの二人は中々珍しい顔ね」

「んー、まァアイツらは普段結構サボってるから目立たなかっただけだな。実際陣と凪は、啓治とか沙霧と同じレベルの力は持ってるよ」


 モニタールームにて冴羽は七人の中で少し順位が低い陣と凪について言及するが、二人は順位以上の実力を有していると恭夜が告げる。


「でも更科はともかく一文字は、アンタが言ってた『特筆すべき武器オリジナリティ』が見つかんないけど?」

「いやいや、あそこまで器用だとアレはもう才能の一つだよ。なァ?」

「俺とか大和さんも、彼と似たような戦型スタイルだしね……」


 恭夜は冴羽にそう返し、隣にいた久世も彼の言葉に同意していた。


「それにしても、A組から三人も出てるのが凄いよね。桐谷君のクラスでしょ?」

「まァね。つっても、伊織と天音はともかく日向がなァ〜。アイツめちゃくちゃムラっ気だからな。蒼とか亜門と同じタイプだ」


 篠宮は恭夜の教え子であるA組の三人に目を付けるが、恭夜は渋い表情を浮かべている。伊織と天音は学年の中でも別格の強さを見せているが、日向はかなりの気分屋でありポテンシャルの100%を発揮出来るのは極稀なようだった。


「てか、タイプで言うなら昔のアンタでしょ」

「え、俺あんな奔放だった?宗一、オマエどう思う」

「俺が入って来た時にはもう恭夜さん先輩風吹かしてたから分かんねーわ……」

「シバくぞお前」


 鼻で笑っている冴羽に、恭夜の学生時代を知る篠宮と万丈が肯定するように頷く。同じ東帝の後輩だった久世に目を向けると、予想外の方向から皮肉を刺して来ていた。


「……今日欠席の天城も含めて、選抜者は八人といった所か?」

「あーいや、ちょっと待って大和さん。今遅刻してんだけどさ、実はもう一人居るんだわ。候補」


 試験演習も終盤へと差し掛かっていたが、総括しようとしていた万丈を恭夜が遮る。


「多分アイツ、そろそろ来ると思うよ」


 誰の事を指しているのか分からない様子の四人に、恭夜はモニターへ視線を向けるよう促した。


 ◇◇◇


 異常事態の発生は、試験の全行程が終了しようとしていた時だった。魔術による物とは異なる轟音が響き、それと同時に演習場の扉が蹴破られる。


 突然の出来事に生徒達は騒然としていたが、そこに現れたのは彼等と同じ服装をした黒髪の少年だった。彼は一言も発さないまま周囲を見回していたが、やがて一人の少女に目を留める。


「一番強ェのは……お前か?」


 謎の少年が目を向けていたのは、この場の魔術師の中で最も強い力を持つ天音だった。天音が口を開くより早く、少年は高速移動によって突進する。攻撃意思を示すかのように、彼の手には一瞬で構成された『闇属性』の魔力剣が握られていた。




「あっぶねェ!」


 しかし天音へ振り下ろされたその刃は、二人の間に割って入った日向によって防ぎ止められる。両拳による白刃取りで、謎の少年の剣を殴り折る日向。更に左右から、天音の危険を察知し動いていた伊織と啓治が挟撃する。


 伊織の刃と啓治の蹴りを、少年は魔力で強化した両腕で弾き返しそのまま距離を取った。


「レディにいきなり襲い掛かるとはどう言う了見だテメェ!今すぐ死ぬかコラァ!」

「蛇島と同じ匂いがすんなあの野郎……」

「司の方がまだ見境あるだろ……いや大して変わんねェか」


 激怒している啓治、戦闘狂の気配を感じ取る伊織、そして知り合いを思い出し笑っている日向。三者三様の反応を見せながら、天音を守るように立ち塞がる。彼等と相対する少年は、口角を吊り上げ鋭い眼光を宿していた。


「ゴタゴタ言ってねェで掛かって来い……まとめてツブしてやるよ」


 全身から魔力を放つその姿は、猛る黒き牙獣の如く。






漆間ウルシマ 創来ソウライ

 学年『3位』(SWP:1762点)

『???(謹慎解除後のためデータ無し)。』

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