第6話 優しさと繋いだ手から伝わる温もり
私を助けてくれた、彼・南波了。
私が襲われかけて目の前に現れた。
私に触れようと、ゆっくり手を伸ばしてくる南波了。
私はさっきの状況からの恐怖感と、何故か過去の出来事もぶり返すかのように交差し、体が強張り、瞳を閉じた。
「大丈夫。何もしねーから」
「………………」
「…無理そうか…じゃあ、お前から来な。俺からは、これ以上、歩み寄らねーから。お前のタイミングで良い。待ってやるから」
私は震える手で手を伸ばし、南波了に抱きついた。
「…よし!良く出来ました。頑張ったな!」
彼の言葉が、私の心を勇気付ける。
犯罪者なのに…?
どうして…?
こんな奴が犯罪者?
そう思わせない彼の行動。
「お前は、単独行動はしない方が良い。アイツらならまた、やりかねない。お前はマジ傷付く。どうして一人で帰ろうと思ったんだ?」
「大丈夫だって…思ったから…」
「…あんな状況でか?奴等の会話聞こえてたんだろ?女一人で何が出来るんだ?例え、お前が強くたって所詮、女だ。敵わない相手は山程いるはずだ!」
「………………」
「あの状態…お前…過去に何かあったんじゃないのか?」
「…それは…」
体を離す。
「今後、もっと行動に気を付けろ。いいな」
私は頷いた。
「アイツらの連絡先は?」
首を左右に振る。
「知らねーのか?」
「まだ、交換してなくて…」
「………………」
「…どうすっかなー…一人で帰すわけにはいかねーし……俺ん所にでも来るか?…正直…危険過ぎて勧めねーけど…」
「…良いよ…平気…余り出歩かれないなら尚更、そっちの方が…」
「…じゃあ…来い!」
そう言うと足早に行き始める。
「ちょ、ちょっと…!待っ…わっ…」
転びそうになり、抱き留められた。
「バカっ!何してんだよ!」
すっぽりと南波了の胸に収まり、私の目の前には南波了の顔があり、私の胸はドキンと大きく跳ねた。
「ご、ごめん…あ、ありがとう…」
「全く!足元、気を付けろよな!」
スッと離れたかと思うと、片手を差し出した。
「えっ?」
「…手」
「手?」
「あー、もうっ!」
ガシッと私の手を掴むと、手を繋いだ。
ドキン…
「お前、危なかっかし過ぎなんだよ!つーか何で好きでもねえ女と手繋がなきゃなんねえわけ!?」
「だったら繋がなきゃ良いじゃん!」
「良くねーよ。あー、それとも肩抱いてラブラブカップルでも演じとくか?」
「えっ?な、何言って…」
クスクス笑う南波了。
「お前、マジにとんなよ。おっもしれーーっ!真に受けんなっつーの!」
「あんたが言うと冗談に聞こえない!マジにされそうだし!」
「犯罪者だからな?」
「そうだよ!…でも…」
「でも…何だよ」
「私の中で想像していた犯罪者とは…違うと感じるのは…あんたがたまに、イイ奴になるからかな?」
「イイ奴!?お前は何を根拠に、そう思うんだ?」
「…本当は…仲間思いの優しい奴で…」
「………………」
「…意地悪だけど…でも…何か憎めないというか…お茶目というか…」
「お茶目って…俺は、そういうキャラか?つーか、お前、それ告ってんのか?」
「違うし!」
「そんな否定すんなよ!」
「否定したくなるし!つーか、もしかして否定しない方が良かった感じ?」
「ちげーよ!」
そして、ふと、私の視界に、こっちが恥ずかしくなる様な事をしていた。
正に二人の世界だ。
《キスしてるし!こっちが恥ずかしくなるんですけど!》
女の人は相手の肩に手を回している。
相手の男の人は女の人の腰に手を回して、かなり密着している状況だ。
かなり濃厚と言うべきか……
「なあ、お前、あんな事、出来るか?」
「えっ?な、何を?」
突然、私に振ってきた。
「正に、二人の世界だよな?」
どうやら、南波了も同じ所に目が向いていたようだ。
「そ、そうだね?まあ…私には無理かなー?」
「だろうな?」
イタズラっぽく笑う南波了。
「じゃあ、自分は出来るわけ?」
「俺?出来るけど?俺を誰だと、お思いですか?棚峅希美さん?」
「犯罪者脱獄犯」
「…………………」
グイッと腰を引き寄せ顔を近付けて来る。
《う、嘘…?マジ》
つい瞳を閉じた。
唇が重なるキス寸前ギリギリの所で止められていた。
「………………」
私は瞳を開け、目の前にある至近距離の顔に、一気に身体が熱くなったのが分かった。
顔も絶対に赤面している。
「すっげー、真っ赤なんだけど!?」
クスクス笑う南波了。
「…もうっ!マジムカつく!私で遊ばないでよ!」
「お前、本当からかい甲斐あるな」
「私はオモチャじゃないし!」
「すっげー、暇潰しになりそう」
「酷っ!」
頭をポンポンとする。
ドキン
「嘘だよ」
ドキッ
優しく微笑み言う南波了に胸が大きく跳ねた。
《コイツ…ズル過ぎだよ…》
《意地悪したり優しくしたり…》
だけど何故か振り回される私はコイツにマジ恋するなんて知るよしもなく――――
そして私は南波了のアジトに行くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます