第17話 国外

 山道へ歩きながらいろいろ試し、魔力マナを火や風、水、石などにして、空中に固定することはできた。


「属性は使えてるな。

 やはりユーヤの固有魔法は固定か。

 爆発も使えるってことはそれ以外も使えるかもな」


 ザインは感心したようにいう。


「属性もそんなにたくさん扱えるなんて......」


 リビィはうらやましそうにいいながらやってみるが魔力マナの矢しかでない。


「固定、任意で発動か面白い魔法だな。

 オレはただ呪文スペルを唱えて氷と炎を放てるだけだしな」


魔力マナを設置したあとだいたい十分間ぐらいで消える。

 だが飛ばせない......

 それと他の魔法が重ねられるぐらいだな」


「まあ、それだけわかれば使えるだろ」


 ザインがそういった。

 

 そしてオレたちは北の山道まできた。

 岩山を大きな木の根っこがおおっている。


「すごいね。

 岩を食べてるみたいだ」


「この国はこの巨大樹メルクーラが生活の基盤だ。

 この巨大樹の果実や皮、木材、できた薬を他国に売って、必要なものを買っているからな。

 この道も貿易のための道なのさ」


「もっと大きく貿易を行えばいいだろ。

 メルクーラは高額で取引されてるし、この国は元々そうやって国を維持していただろ」

 

 ザインがそういうと、フェルスは困惑の表情を見せた。


「そんなことはわかっている。

 が、先の王が亡くなって、ラハラール様は特定の商人以外許可をとらせないんだ」


「癒着か......」


 オレが聞くとフェルスが首をふる。


「ああ、その膨大な富を独占しているのさ」


「よく不満がでないな」


「一応表向き女王が統治しているということになってるからな。

 先の王はみんなから慕われていた。

 その娘だからな。

 不満はあっても声はあげにくいのさ」


「なるほどその娘である女王の威光をかさに着て好き放題ってわけか......」


 ザインは不快そうに呟いた。


「ただ......

 最近何かおかしいと噂にはなってるがな」


「おかしい......」


「ラハラールが数年前から数日出かけることがある。

 だが、どこにいっているのか誰も知らん。

 国内ではみかけんらしいから、国外にでているのでは、という噂だ」

 

「国外......」


「おっと国境の検問所だ」


 フェルスの声でみると、先の方に馬車が並んでいる。

 門のまえに十人程の兵士がいて、周囲を確認している。


「いつもと変わらん。

 どうやら杞憂きゆうだったようだな......」 


 フェルスがいった。


「いや、ま、まずい! 少し引くぞ!」


 ザインが焦りながら小声でいった。


「どうした!?」


「俺の魔法が一瞬解けた!!」


 確かに少し姿がうっすらとみえてきた。

 すぐ馬車の影に隠れる。


「どうしてまだ時間があるはずだよね......」


 リビィが不安そうにいった。


「あれは!? 

 もっと離れるぞ!」 


 フェルスにいわれて離れる。


「どうしたんだフェルス!?」


「あの門のところに宮廷魔術士がいた。

 多分、魔障術オブスタクルだろう。

 魔法を阻害する魔法を使っている...... 

 近くの魔法をうまく発動させないようにする高位魔法だ。

 やはりこの国から出させないつもりだな」

 

「王宮ではつかってなかったのにか......」


 オレがきく。


「魔法を阻害するからな。

 王宮には遠距離攻撃を防ぐシールドが張られてるし、それも阻害してしまうから常には使わない」


 フェルスはそういって黙った。


「あいつらだってずっとは使えないよね。

 一旦隠れて使ってないことを確認してから外にでる方がいいんじゃないの」

  

 リビィがいうとザインが難しいな、といった。


「......魔力マナも森で使いすぎてまだ回復してない。

 何回も《見えざるもの》を使うのも無理だ。

 そのうち誰かに見つかる」


 ザインがそういうと、剣を抜く音がした。

 

「オレがあの宮廷魔術士を倒す......

 そのすきに門を抜けろ」


「やめろフェルス。 

 お前が捕まったら、誰がお前の妹を救えるんだ。

 この国にお金を送る方法があるのはお前だけなんだぞ......」 


 オレが止める。

 

「だが、もうすぐ魔法も解けるぞ......」


「なら俺が!」


「ボクが!」  


「やめろって!

 いま考えている。

 ちょっと待て」


 オレが皆を止め考える。


(宮廷魔術士の魔法を止める......

 近づかないでオレの魔法ができることは......)


「......魔法を阻害する魔法ってオレでも使えるのか......」


「属性をそれだけ使えるお前ならできなくはないかもな......

 ただその呪文スペル紋様サインもわからん」


 ザインがそういった。


「オレが知っている。

 昔、近衛騎士になろうとして採用試験にでると知ってたからな。

 まあなれなかったわけだが......」


「フェルス教えてくれ!

 あとは紋様サインをどうにかして飛ばせれば......」


「ボクの《射るもの》なら紋様サインを飛ばせるかも......」


「本当かリビィ!

 よしすぐためそう!」


 オレたちはかなり離れて魔法を覚えることにした。

 

「とりあえず、紋様サインを教えるぞ!」 


 そういってフェルスは地面に模様を書き始めた。


「こうだ。

 これに魔力マナをこめると発動し、魔力マナの量で効果と時間が変化する。」


「かなり複雑だな......

 まあ透明になっているから、ゆっくりかけばいいか」


 オレは正確に一つ描いてみる。

 できた模様に少し魔力マナを込めた。


「おっ! オレの腕がみえてきた!

 レアク、レレアラ......

 離すとまた透明になるな!」


「近くだと、言語にも影響がでる成功だな。

 離れてリビィが射てみてくれ」


「うん!」


 オレが紋様サインを空中に設置するとリビィが《射るもの》で射た。

 そして発動する。


「ミレエラ、リクリリ......

 おお、体が見える! 成功だ!」


 フェリスがそういった。

 

「よし! 飛ばせるな」


「じゃあこれであの宮廷魔術士の魔法を阻害すればいいんだね」


「そう簡単じゃない。

 正確に効果範囲を知らないと、俺たちの透明化も解除されちまうぞ」


「ザインのいうとおりだな。

 効果範囲を絞れないとオレたちが丸見えになる。

 もう少し魔力マナの調整が必要だ」


 オレは何度も紋様サインを描き魔力マナの調整を行った。


「何とか、効果範囲の感覚はつかめた。

 あとはこれをリビィに正確に射てもらってから発動させる。

 すこし紋様サインを描く時、魔力マナを使ってるからか、微妙に矢がずれてるからな」


「まかせて!

 調整するよ!」


「よし! はやくいこうぜ!

 もうすぐ《見えざるもの》の効果の方が消えちまう」


 オレたちは門のところに戻り様子を伺う。


「宮廷魔術士の魔法効果が切れるときが狙い目だ。

 オレが確認するから、ユーヤとリビィは魔法を用意してくれ」


 フェルスがそういい、オレとリビィは紋様サインの位置を決め用意する。


「おいおい! まだかよ!

 もうじき俺の魔法がとけちまう」


「しっ!  

 よし! 詠唱を止めた! 

 門も空いてる! いまだ!」


 オレは空中に紋様サインを描くと魔力をこめる。


「いいぞ! リビィ!」


「いくよ!」


 リビィは大きな光の矢を放つ。

 それはオレの紋様サインをまとい、まっすぐ宮廷魔術士のとなりの壁に命中した。

 宮廷魔術師と兵士はその音と光の矢に驚いている。


「いまだ! 」


 オレは魔障術オブスタクルを発動し、騒いでいる兵士たちの横を駆け抜け門を越えた。

 


 こうして、オレたちはエルフの国から脱出することに成功したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る