揺れるリント
「【
第七階梯の魔術で門ごと聖騎士達を吹き飛ばす。
とにかく派手で目立つやつだ。
それを選んだ理由は、聖騎士達の目を俺に釘付けにさせるためだ。
『最初から飛ばしすぎないでよね?』
人の限界を超えた第七階梯の魔術は通常、俺が使用出来る最上位の魔術だ。
命を掛け金にしてしまえば、それよりさらに上の階梯の魔術を使うこともできないわけではないが……。
「ユミル、街の上空に俺の映像を投影して欲しい」
さっきの大爆発で、聖騎士達の注意も住民の注意も俺に向いている今、俺にはやりたいことがある。
「でも、さすがに私一人じゃ魔力が足りない」
街全体から見えるように投影するには、さっきの第七階梯の魔術に及ばないまでもかなりの魔力が必要だろう。
「心配するな、俺がいる」
でもそれは、些細な問題だ。
ユミルの魔力機関のあるだろう胸元にそっと手を当てる。
「これで問題ないだろ?」
たっぷりと俺の魔力を注ぎ込む。
ユミルは力強く頷くと手を前へと突き出した。
「【
街の中心部の上空に大きな膜のようなものが形成され俺が映し出された。
「あとは、私に向かって話すだけで投影される」
自分の前に翳した手を俺へと向けた。
そこに向かって話せばいいということか。
「リントの街の皆、俺が今から話すことをよく聞いて欲しい」
俺の声は、【
「俺は、かつての英雄の魔術師アイヴィスだ」
さっきの大爆発で家から飛び出した住民達が、臨戦態勢だった聖騎士達が一斉に空を見上げる。
そしてざわつき始めた。
「今は、教団によってあらぬ疑いをかけられ追われる身になっている」
事実、俺は逆賊として牢に囚われていた。
そして今もそのときに装着させられた吸魔の円環が右腕にある。
「何を言うか!アイヴィスを殺せ!」
騎士団の一隊の指揮官らしい男が叫ぶと魔法を撃ち込まれる。
一々相手にしていたら骨が俺そうだな。
聖騎士達は、自分の放った攻撃をもろに受けて肉塊と化す。
その様子を見た聖騎士達は、それ以上攻撃するのをやめた。
「オストランド聖教は、この街の子供達を攫い廃教会で魔力機関を摘出し実験に使用していた。そして彼らは今、その事実を揉み消すためこの街の住民達を手に掛けようとしている」
元々駐留していた騎士と新たに今日派遣された騎士を合わせれば軽く千人を越すだろう。
この街の人口の四分の一に相当する数だ。
「だから俺は、今日ここにいる。
そう言うと俺のいる場所を見つけたのか、ギルドで前にあった槍使いの男が足元で大声で言った。
「お前、アイヴィスだったのか!そういうことなら協力するぜ!」
彼と初対面のときは、顔を変えて会っていたが声で気づいたらしかった。
「助力、感謝する」
それだけじゃない、街にいた冒険者やギルドの職員といった男たちが自分たちの得物を抜いた。
「これは、妄言だ!惑わされるな!」
「お前達も浄化の対象に入ることになるぞ!」
大声を発して威嚇する聖騎士達。
「妄言だと言うのなら見せてやる。ちなみにこれは、かつて創造を司った神である彼女、ユミルの見せる記憶だ。疑うことは即ち神を疑うことになること、聖騎士団のお前達は理解しているな?」
どうせだったらこの街の住民全てをユミルの信者に仕立てあげてしまえばいい。
そのための下地を作ろう。
そう思い、俺は敢えてユミルを紹介した。
隣にいるユミルに目配せを送る。
「【記憶投影】《オニミス・プロボリー》」
ユミルが静かに呟くと、俺の映像に変わって廃教会での悲惨な光景が映し出された。
「本当かよ……」
「許せねぇ!」
「私達が信じていたものは何だったの!?」
動揺する者、いきり立つ者、信仰を見失う者、人々の反応は様々だ。
「これが教会の行っていたことだ」
聖騎士達も動揺し始める。
中には、こんなことを教会が行っていると知らない者もいただろう。
「これでも俺を疑うのであれば掛かって来るといい。かつての英雄アイヴィスが尋常に相手してやる」
改めて目の前にいる俺が、本物のアイヴィスであるということを認識したのだろう。
だが彼らの職務には、俺を捕らえるということもおそらく含まれているはず。
「お前達、あの男を撃ち落とせ!」
一際目立つ甲冑を着込んだ男が叫ぶと一斉に騎士達が詠唱を始めた。
この状況に陥ってもなお、職務を優先するらしい。
「「「【
空中に撃ち出される圧倒的な数の魔法攻撃。
いよいよ、街の解放は大詰めを迎えつつあった。
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