ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハカタ

味噌村 幸太郎

第1話 凸電、テクニック!


 2020年、最悪の年が始まった。

 例のウイルスがまん延して、元々引きこもりだった僕は、外出不安が更に強くなり、家でずっと寝込んでいた。

 別件で、家庭の問題があり、特に親父との確執から、メンタルはボロボロ。

 過呼吸と激しい胸の痛みで、半年間は死に体として、生きていた。


 そんな中、僕が慕っているメンクリの先生と相談している中で、一つの提案が出た。

「B型の作業所に行ってみないか?」

 だいぶ状態も良くなっていたので、僕は「はい!」とやる気が出た。


 インターネットで、B型作業所を検索していると、とあるホームページが引っかかった。


『君の作品をスキルアップしながら、収入にしよう!』


 なんてキャッチフレーズだったと思う。


 見れば、某オタク文化に特化した専門学校に似ている。

『アニメ・マンガ・声優・ユーチューバー・動画制作・イラスト・歌・コスプレ・プロゲーマー』


(こんなのがあるのかぁ……)


 特に一番気になったのは、最後の項目だ。

『小説・ライトノベル』


(うおおお! タダで通所できて、尚且つ、小説を習えるのか!?)


 テンションが爆上がりした僕は、すぐに電話して予約する。

 どうやら、この秋に博多のどっかで作業所を開所するとのこと。

 社交不安障害がある僕は、ビクビクしながら、

「と、とりあえず、見学だけさせてください……」

 そう言って、予約するのであった。


 数日後、博多のスタッフから電話があった。

「ガハハハッ! 味噌村さんですか?」

 開口一番、ゲラゲラ笑うおじさんが出て、僕は少し怖かった。

「は、はい……」

「見学希望らしいですね。いつがいいですか、ガハハハッ!」

(なんでこの人、こんなに笑ってんだろ……)

「はい、じゃあ最短ならいつごろ空いてます?」

「ガハハハッ! 最短ですかぁ? ガハハハッ!」

(なにが可笑しいんだ?)

「じゃあ、9月26日でどうですか、ガハハハッ!」

「は、はい。それでいいです……」

「狭いところですけど、見てやってくださいよぉ! ガハハハッ!」

 終始、爆笑した人が新作業所の所長らしく、名前は天拝山てんぱいざん 輝照てるてるさんだ。


「うーん、なんか変わった作業所だなぁ……」


 とりあえず、見学を決めた無職の38歳だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る