第12話 16歳と18歳(レイモンド)

 それから2年経ちアリスの入学してくる少し前のこと…、いつもみたいに王子に呼び出され僕は虐められていた。僕は心も身体も傷付き、痛みは麻痺したかの様に何も感じないしこれが日常だった。


 だけどその日の王子はいつもより不機嫌だった。


「お前抵抗の一つも見せないのかよ。つまんない奴!!まぁ王子に手を上げる馬鹿ではないか…」

 そう言うと王子は僕の前髪をかき上げた!


「ふうん、こういう顔をしていたのか。ムカつくな。なんだその目は?気に入らないな?


 どうせ前髪で隠れるしお前一つでいいよなぁ?」

 と言うと王子はなんと僕の目を潰した。


「ぎゃああああああああ!!」

 流石に物凄い痛みが駆け回り地面を無様に転げると王子は笑い


「あはは!!面白い!!大丈夫かい?死ぬんじゃないよ?」

 と王子は言い去る。

 僕は医務室へ這う様に向かった。誰も助ける者はいなかった。何とか着くと先生は驚いた。しかし…王子に虐められている僕の事を何となく知ってはいたが、たてついて辞めさせられる事は出来ないだろうから手当てと鎮痛剤を打たれて僕は暫く休んだ。


 怪我をした事は家に報告しなかった。アリスに余計な心配をさせるわけにいかない。

 生きてさえいればいい。


 *

 それからアリスは学園に入学したとジョルジュさんから手紙を貰っていた。

 でも僕は会わなかった。

 寮長のショーン・コバリーからアリスが僕を訪ねて来たと告げられていきなり殴られた。


「まさかお前の妹があんなに可愛いなんて知らなかったよ!紹介してくれよ」

 下卑た笑い方…。こんな奴にアリスは渡せない!


「妹にはもう良い人がいるんです!」

 そう誤魔化すと


 ドス!!

 と腹を殴られる。


「うっっ!!」

 痛みで膝をつく。お腹を抑え蹲ると更に蹴り続ける寮長。


「あんな可愛い子紹介しろって頼んでんだろ!!」


「くっっ!………」

 誰が紹介なんてするか!すると影から長い黒髪が現れて僕の前に出た!


「何してるの!!?お義兄様!!?」

 アリス…。どうしてここに!?


「あ!この前の!良かった来てくれたんだ!一緒にこれからお茶でも…」

 アリスはズイと蒼いペンダントを突きつけ


「私に触ると呪いが発動して貴方死ぬわよ!?いいんですの?」


「ああ!?何だそれ?…」


「知りませんの?私に手を出した者は死から逃れられない。社交界では囁かれていますのよ」

 と言うアリスに顔色を変え寮長は去って行く。


「ちっ!!レイモンド!てめえさっさと死ね!」

 捨て台詞を残し。

 それにしてもお腹が痛い。


「大変!医務室へ!」


「いい…何で…来た?僕は少し休めば平気だよ」


「お義兄様!手紙も寄越さないし家にも帰ってこないのはこうやって虐めを受けていたから!?それにその片目はどうしたんですか!?そんな怪我!」


「……いや…別に?ただ髪をかきあげられて目が気に食わないと一つ潰されたくらいだよ」


「そんな!くらいだなんて!やったのは誰ですか!抗議します!!」


「やめた方がいい。上位の貴族様だからね。逆らわない方がいい」


「それでも!酷すぎますわこんなの!!」

 アリスは優しい。でも甘えちゃダメだ。


「それより何で来た?それにそんな石までまだ持っていたのか?それはただのペンダント。死なんて来ない」

 と言う。


「知ってますわ!!だから利用させていただきました。…お義兄様…私とても寂しかったのですよ?何故家に帰ってきてくれないのですか?」

 帰れるわけないだろ。僕は誤魔化す様に


「…婚約者は見つかった?良い人を選んで紹介したんだけど」

 アリスは首を振る。


「そんなことなさらないで帰って来てください!」


「……心配かけたくないし…。アリスに会っても気持ちがられるだけだ。僕はね…君のことを初めて会った時から好きで…でも妹にしちゃうとこの気持ち悪い気持ちを知られたら引かれるし…お人形さんならって思って愛でている変態だよ。


 お義父様にも反対された…。だからもう早くアリスにまともな婚約者を見つけて僕は卒業したら侯爵家を継ぎ…年老いたら適当に養子を取り後を継がせるつもりなんだ。


 だから僕の事はもう気にしないでいい。アリスが不快だろうから戻らなかった。これからも会わなくていいよ」

 そう言うとアリスから離れて立ち上がる。全身ボロボロだ。これ以上僕に構わないでいいんだよアリス。


「目の傷は知りませんでしたわ。家に連絡が行かないようにしたのですね!?」


「………」


「レイモンドお義兄様!!きちんと応えてください!!」

 と言われ僕は久しぶり発作が出た。闇が僕を襲う。子供の頃、継母や兄達に虐められて真っ暗な所に閉じ込められいいと言うまで出されなかった。


「うううう!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!!ごめんなさい!!僕は悪い子悪い子悪い子…」

 と震えて蹲る僕にアリスは背中をさすった。


「お義兄様興奮させてごめんなさい!大丈夫ですからね。誰も責めてません。悪い子でも無いですから!ね、顔を上げて…」

 そう言い、片目が涙目で上を向いた僕にアリスは近付いて唇にキスを落とした。

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