第28話 15日目 2002年5月28日 (土)

 目覚めは4時半。昨日は早めに10時には就寝したので比較的よく眠れた方だけど、体はあちこちが痛い。寝ているとその部分に圧力がかかるのか、或いは痛みの部位が何らかの形で刺激を受けるのか、むしろ起きてしまった方が痛みが少なくなるというのは厄介である。眠りが休みにならない。

 体温は35.9℃。血圧105/52脈拍は60。朝ご飯は昨日の残りを海苔の佃煮と一緒に食す。

 ベートーベンの7番交響曲をオットー・クレンペラー指揮のフィルハーモニアで聴いてみる。クライバー/ウィーンフィル、カラヤン/ウィーンフィル・・・・様々な名演がある中で、既に過去の人となっている感のあるクレンペラー盤が存在する意義があるのか、と問われれば、僕は明確に「ある」と答えたい。

 クライバーやカラヤンの演奏が疾走するようなスポーツカーの演奏だとしたら、クレンペラーの演奏はクラッシックカーが、時折かくかくとした動きをしながら進んでいく、そんな情景を思い浮かべさせられる。だが、その背後の姿にはフルトヴェングラーやワルターとも違う、骨格のがっしりとした風格というものを感じさせる。

 この「セクハラ・パワハラ・とんでもない奇行と皮肉癖ととてつもない病気と怪我の持ち主でありながらなかなか死ななかった(クソ)親爺」指揮者はたとえ何があろうと、演奏中には指揮棒を離さず、指揮棒を握れば彼のもとにミューズは少し顔を顰めながら降りてきた。指揮台からひっくり返り落下して腰を痛めても車椅子で指揮をすると、ミューズは溜息をつきながらそれでも降臨してきた。「ワルターはモラリストだ、自分は断じて違う」と叫ぶような変人変態は現代では生きていけないかもしれないけど、現代にこれほど卓越した才能があるのだろうか?という逆の疑問もある。同じセクハラをしたレヴァインもデュトワも正直言って足元にも及ばない。(ただしデュトワの「春の祭典」と「ボレロ」は評価するものである。レヴァインに関しては評価できる演奏を<たまたまかもしれないが>聴いたことがない)

 骨太のややテンポのゆっくりとしたクレンペラーの演奏はとてもセクハラ親爺であることを感じさせない堂々としたもので、本当にこういう人をどう評価したらいいのか困ってしまう。まあ、とりあえず身近にいないので、迷惑を掛けられたこともないから「名指揮者」と呼んでおこう。

 そんなことを書いていたら第4楽章が始まった。カラヤンやクライバーが冒頭から格好良く飛ばすこの楽章を、これほど鈍くさく堂々と始める・・・それが(クソ)格好良く思えてしまうのはほんとうにどうしてだろうね?

*Lutwig van Beethoven Sinfonie Nr.7 A-dur Op.29 / Prometheus Ouverture Op.43

Otto Klemperer Philharmonia Orchestra

EMI CDM 7 69183 2


 もう一曲はサビーネマイヤーのクラリネットによるモーツアルトとウェーバーの室内楽。マイヤーと言えばカラヤンとベルリンフィルが決別するきっかけを作った女の子(当時)だが、これに関してはカラヤンに軍配をあげたい。「厚みと融合性が欠如している」と評価したベルリンフィルの楽団員の総意(?)は明らかに誤りである。彼女のクラリネットの響きは厚みもあり融合性も豊かで素晴らしい。

 結局ベルリンフィルに採用されなかったけど、彼女のその後のソリストとしての活躍は目覚ましく、こうした室内楽の名演奏を聴くことが出きるのは大変ありがたいことである。その意味ではベルリンフィルは誤ってはいるが素晴らしい決断を下したといえよう。

*Wolfgang Amadeus Mozart :Quintet in A Major KV581 for Clarinet, 2 Violins & Violoncello

Carl Maria bon Weber/ Josef Kuffner: Introduction, Theme and Variations in B-flat Major for Clarinet, 2 Violins, Viola & Violoncello

Sabine Meyer (Clarinet) Philharmonia Quartet Berlin DENON DC-8098


 朝9時半に、「モンセラートの朱い本」を買おうと渋谷のHMVに向けて出発した。昔なら大して気にしない距離だったが、やはり体力が落ちているせいだろうか、恵比寿あたりで一休みする。渋谷のHMVについたが、店舗の前に女の子達がたくさんいるのにびっくり。何やらイベントが行われているらしい。音楽関連はもう殆ど店舗販売というのはないと思っていたけれどそんなこともないらしい。クラッシック音楽の音楽コーナーは7階でエスカレーターで登っていく途中も一緒なのは女の子達が殆ど。その子達は4階や6階で降りて7階までは上がってこない。でも(たぶん)君たちのおかげでこの店舗が成り立ち、クラッシック音楽のコーナーも存続できているんだろうね。感謝。

 さてクラッシック音楽の棚に行ってみれば、おやおやラサールのベートーベンの後期四重奏曲があるではないか、あ、それにブラームスも・・・。え?ポリーニはベートーベンの後期ソナタを再録音したのかっ?といきなり取り乱してしまった。いやもう、それ以外にも欲しいものがたくさんあって、これは最近俗に言う「沼に嵌まった」状況なのであろうか?「モンセラートの朱い本」というルアーに見事に引っかかった僕は久しぶりに大枚をはたいて結構な量のCDを買ってしまった。ただでさえ、本棚が埋まってしまっているというのに。

 肝心の「モンセラートの朱い本」は外盤しかなくて、お店の人が探してくれた。Jordi Savall指揮 La capella de Catalunya Hesperion XXIの演奏の物は最初に聴いたNHKFMのものと同じ。なぜかCDとDVDの二枚組である。演奏は同じで動画付と動画なしみたいな?最近はこういうのが流行なのであろうか。

 渋谷からの帰りは電車に乗った。荷物が多いと大井町行きのバスに乗った方が歩かなくても済むのだけど。


 夜は鶏肉の南蛮風。体温は35.8℃、血圧は106/55、脈拍は70。




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