第26話 13日目 2022年5月26日 (木)

 体の奥底に痛みを感じて目が覚めた。あたりは真っ暗である。初夏のこの季節、あたりが真っ暗というのでは深夜であることは明らかで、少し憂鬱になる。これからずっとこんな風に目が覚めるのだろうか?

 時計を見ると12時を少し回ったばかり。つまり寝てからまだ一時間ほどしかたっていない。仕方なしに痛み止めを腸瘻から半分量ほど入れた。昨日盛大に戻したせいで薬が体内に入っていないに違いない、と考えたのだ。痛みはすぐに引くことはなかったが、床につくと暫くして眠ったらしい。次に目覚めたのは4時半。憂鬱さは晴れぬまま、起き上がり、朝の音楽を掛けた。

 バーンスタインの指揮するラプソディー イン ブルーとウェストサイドストーリーのシンフォニックダンスを聴く。塞ぎ込むような気分の時はこうした音楽も良い物だ・ラプソディ イン ブルーはアメリカのクラッシック音楽の中で出色の出来映えであるし、ウェストサイドストーリーは単なる映画音楽以上の曲でさすがバーンスタインと思える名曲である。

*Gershwin/Bernstein "Rhapsody in Blue" "West Side Story :Symphonic Dances"

Los Angels Philharmonic Orchestra Leonard Bernstein

Deutsche Grammophon 410 025-2


 昨日は京急の株主優待乗車券で上大岡へ行ったが、東急の方も三枚残っていて、その上、五島美術館かBunkamuraに行けるチケットも同じく5月末までの有効期限だった。それでまず九品仏のパティスリーに行ってお世話になった看護士さんへのお土産を買うことにした。地元に新しくできた洋菓子店のものとどちらにするか悩んだけど、焼き菓子は九品仏の方に軍配を上げる。地元のお店は今度いずれケーキを買って試してみたい。

 九品仏の駅は「ホームに電車が納まりきらない大井町線に二つある駅」の一方の駅で、そのうえホームから出るなり踏切があるという変わった構造の駅である。(まるでドイツのSバーンみたいな作りだ)降り立ったのは初めてだ。知り合いの素敵な女性が住んでいて、以前ここの駅周辺にある焼き菓子をお土産に買ってきてくれたのが美味しかったので、その店を探し求めて駅周辺をうろつくと難なく見つかった。お土産のついでに自分用にガレットブルドンヌとケーク オ フリュイを一個づつ買った。

 それからもう一枚切符を使って上野毛まで足を延ばし、五島美術館へと向かった。これで訪れるのは三度目だけど、庭を含めてなかなか趣きのある美術館で、まず展示スペースが極端に狭いのが良い。そもそも美術館なんていうのはどんなに広くても集中して見れるのは20~30枚がせいぜいである。

 ミュンヘンにあったアルトピナコテークやらノイエピナコテークは日曜日が無料開放で、毎週訪れてはそのくらいの枚数だけを見て帰ってくるというのを繰り返していたが、それはただだからできる芸当で、1000円とか取る美術館ならば、きちんとしたコアの美術品を含めて40~50枚あれば十分である。ちらしを見直すと書跡や硯などを含めて100点ほどの展示だったけど、それ以上は不要である。お金を取る美術館ほど展示には気を遣って貰いたい。

 前回は源氏物語絵巻の展示で来たのだけど、今回は日本の近代絵画の展示会で、狩野芳崖、横山大観や河合玉堂、小川芋銭などの絵が展示されていた。小川芋銭の「蓬莱仙境図」、橋本雅邦の「秋山秋水図」それに小茂田青樹の「梅さける村」が気に入って絵葉書を買うことにしたが小川や橋本の絵葉書はなく、たった一枚小茂田の絵葉書だけ買うことになって・・・たった80円なので店員さんに申し訳なかった。横山大観を見るのも良し、川端玉章を観ずるのも良し、毎回お会いする愛染明王坐像に挨拶をするのも良し、散歩にはちょうど良い規模である。

 この美術館はさっきも書いた通り立派な庭が併設されていて、崖のようになっている。元気な時は崖を下まで降りていくが、今回は控えた。それでもちょっとした散策もできる。初夏のような陽気で気持ち良かった。

 五島美術館は東急の創設者である五島慶太の蒐集した美術品を展示したもので、だいたい昔の経営者というのはなぜか美術品を蒐集する傾向があった。有名な大原美術館やら、安田の東郷青児美術館、ゴッホのヒマワリを買った製紙会社の会長も居たし、五島のライバルであった西武の堤も美術品を集める癖があった。有り余る金の使い道に窮したのかも知れぬ。

 本当のところ、経営者に美術品を見極める力が備わっているのかはよく分からないが、ヨーロッパでも金持ちが芸術をサポートするのは当然で、メディチ家だってそうだったわけだし・・・。といっても蒐集するのと芸術をサポートするのは少し意味が違うし、なんせ強盗慶太と言われた人だからなぁ・・・と思うけど、少なくとも故人の遺志(遺志かどうかは知らねども)を継いで美術館として運営していくフィロンソロピー的な姿勢は支持したい。(ってタダ券で行って80円の絵葉書を買っただけでは偉そうに言えないけど)


 睡眠時間が不足しているのだろうか、疲れ気味である。夜の体温は35.9℃。血圧は95/55と低めだった。脈拍は68。

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