第20話

五人で座ったままでいると、やがて外が明るくなってきた。

今日はいったいどこを捜索するのだろうか。

それでなにか見つかるのだろうか。

などと正也は考えていた。

なにも進展はないとは思うが、寺の住職に会ってみるのもいいかもしれない。

でもやはりあの化け物は危険だ。

あれが現在の最大の問題点だろう。

あいつに会わずに済む方法はないものか。

それともひょっとしたら、ないか思いもかけない弱点なんかがあって、わりとあっさり倒したりできるんじゃないんだろうか。

なにが弱点なのかはもちろんわからないし、そもそも弱点なんかがあるのかどうかすらわからない。

村人の怨念の集合体だとしてら、実体があるようで実はないのかもしれない。

幽霊と同じように。

そうなるとほぼ物理攻撃は効かないだろう。

お手上げ状態だ。

呪文とか念仏とかが効けばいいのだが。

正也がいろいろと考えていると、いきなりすごい勢いで陽介が立ち上がった。

「もうこんなところ、嫌だ嫌だ嫌だ。さあみんな、さっさと村を調べるぞ」

思いっきり命令口調だった。

さやかがそれに続く。

「ほんと、陽介の言う通りだわ。こんなところ、一秒だって我慢できないわよ。もう今すぐ家に帰りたい」

そう言うと陽介、そしてさやかが二人で洞窟を出て行った。

正也は一瞬どうしようかと思ったが、もちろん放っておくわけにもいかない。

正也が立ち上がる前に、はるみが素早く立ち上がった。

そして正也、みまも立ち上がる。

三人で二人の後を追った。

洞窟を出ると、二人は山道を下っていた。

二人並んで。

三人は最初、はるみ、正也、みまの順に追っていたが、正也が意図的にみまと入れ替わり、はるみ、みま、正也の順になった。

みまを最後尾にさせるわけにはいかない。

そしていつもなら前と後ろを嫌がり、三人の間に入る陽介とさやかだが、今は二人で先頭をずんずん歩いている。

その歩みがやけに早い。

水泳部だった陽介はともかく、運動スポーツは得意ではないはずのさやかも、陽介に負けずに早い。

速足の三人がすぐにはその距離を縮めることはできなかったほどだが、しばらくしてようやく追いついた。

はるみが言った。

「行くのはいいんだけど、いったいどこを探すの?」

陽介が歩きながら答える。

「そんなの知るかよ。もともとはっきりとここが怪しいなんて場所はないんだ。行き当たりばったりに決まってるだろう」

さやかが続く。

「そうそう。なんでもいいからさっさとここから出る方法を見つけて、家に帰るのよ。文句ないでしょ」

はるみは何も言わなかった。正也とみまも同じだ。

今の二人に言うべきことなどなにもない。

好きにさせるだけだ。

三人はただ黙って二人の後をついて行った。

――めちゃめちゃいらついているな。

正也は思った。

でもそれは当然だ。

こんな圧迫感だらけの異様な状況だ。

いらつかない人間などいない。

それを表に出すか出さないかだけの違いだ。

歩き続ける二人は、細長い村を横切り、反対側の山道に入って行った。

ゆるい下りの山道。

この先は村に戻される地点まで、結構な距離がある。

しかし二人の歩みは全く止まる気配がない。

――まあ、こっちもいつかは捜索しないといけないと思っていたから、ちょうどいいのかもしれないな。

正也はそう思った。

五人でそのまま歩く。

歩きやすい緩い下り坂を。しばらく歩いていると、陽介が突然止まって言った。

「なにか音がしなかったか?」

正也は何も聞かなかった。

風の音、鳥のさえずり、川の流れる音、そして五人の足音だけしか聞いていない。

さやか、はるみ、みまの三人の女子も同様のようで、なかばきょとんと言った感じになっている。

「確かこのカーブの先から聞こえたはずなんだが」

陽介はそう言うと、小走りに走り出した。

さやかが瞬時について行く。

残りの三人は一瞬反応が遅れてついて行った。

カーブを曲がると、そこにいた。

あの巨大な化け物が。

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