第6話
そう思ったが、今はそんなことを考えている場合ではない。
みまの言う通り、みんなで助け合い、知恵を出し合い、なんとかここから出ないと。
とは言っても、四人とも狭い車内の中で無言だった。
誰もなにも言葉を発することがない。
正也は一生懸命に考えていた。
でもなに一つ思い浮かばないのだ。
あまりにも異常。
信じられないくらいの異常。
一体なにがどうなっているのか、さっぱりわからないのだ。
今現在の現状はわかってはいるが、あまりにも現実離れしすぎていて、繰り返し何度も村に戻されたと言うのに、いまだに実感と言うものがわいてこない。
おまけにその原因は、皆目わからないのだ。
当然のことながら、解決策は全く脳裏に浮かんでこない。
他の三人はどうなのだろうか。
見ればみまは難しい顔をして口をへの字にしている。
残りの二人ははっきり顔が見えないが、さっきから微動だにしない。
おそらく正也と同じで、懸命に考えてはいるが、口に出して提案するほどのことは思いつかないのだろう。
それでも時は止まることなく流れていく。
かなり時間が経ったと思われる頃、みまが言った。
「とりあえず、いざという時のためにガソリンだけでも確保しておかないと」
「どうやって?」
陽介が言う。
陽介とは一応友達だが、気の合わない時が多い。
ただこの時は、正也も陽介に同感だった。
「村の人に聞いてみるのよ」
陽介が答える。
「えっ、あんな無表情で気味悪い奴らに。そんなの聞いても無駄だと思うぜ」
「聞いてみないとわからないでしょ。それともこのまま何もしないで、ずっと車の中にいるつもりなの」
そう言われると、陽介も反論するすべをもたない。
「そうかい、わかったよ。聞けばいいんだろ。聞けば」
半ばやけくそ気味にそう言うと、荒々しく車を降りた。
三人が後に続く。
正也は陽介も村の人の感情が薄いと感じているんだなと思った。
無表情で気味悪いと言った表現で陽介は言ったのだが、大差はない。
歩いて、最初の民家に着いた。
これでここは三度目だ。
呼ぶとまた同じ女が出てきた。
一人暮らしなのだろうか。
今はそんなことは、全くどうでもいいことなのだが。
「えっと、すみません。とにかくガソリンが欲しいんですが、どこにあるか知りませんか」
友人でも知人でもない人に話すにしてはぶっきらぼうな言い方で陽介がそう言うと、女が言った。
「ガソリンだって? さあねえ。ここはバスは一日一台来るけど、車を持っている人なんて一人もいないからねえ。見ての通りガソリンスタンドなんてものもあるわけないし」
ほぼ無表情で全く心がこもっていない声で、女が言った。
「そうですか。どうもすみませんでした」
陽介も棒読みでそう言うと、女の背を向けてすたすたと歩き出した。
三人が後を追うと、陽介は少し離れた隣の家へと向かった。たどり着く。
「ごめんください」
必要以上に大きな声で陽介が言うと、少し間をおいて男が出てきた。
七十代後半くらいだろうか。これまたいかにも田舎の老人と言った風貌だった。
「なんでしょう」
「すみませんが、俺、ガソリンが欲しいんですよ。ついでに村から出る方法も知りたいんですがね」
さっき以上にぶしつけな物言いで陽介が言うと、老人が低く言った。
「ガソリン? ここは一日一回バスが来るけど、車を持っている人なんか一人もいないからねえ。こんな村にガソリンスタンドなんてあるわけないし。ガソリンなんてものは、ここにはないねえ。それにここから出る方法だって。ここは一本道だから、東か西に行けばそのうち出られるけどね。そうしたらいい」
女と同じくほぼ無感情な物言いで、顔はほぼ無表情だった。
印象を一言でいえば、気味が悪いだ。
言っている内容も、女と全くと言っていいほど同じだ。
おそらく、この村の人にとっては本当のことなのだろうが。
「そうですか。わかりました。それじゃあ」
陽介が突き放すように言い、再び歩き出す。
向かった先は更に隣の家だった。
着くなりまるで怒っているかのように言った。
「すみません」
少し待つと、女が出てきた。
若い。とは言っても前の二人よりは若いと言うだけで、十代や二十代ではない。
四十代後半と言ったところか。これまた田舎の中年女性を絵に描いたような見た目だった。
「なんですか」
知らない若者が四人もいきなり訪ねてきたと言うのに、眉一つ動かさずに女が言った。
負けずに陽介が言う。
「とにかくガソリンが欲しいんですが。どこにあるか知りませんかね。それと、この村から出る方法も知りたいんですが」
「ガソリンですか。ここはバスは一日一回来るけど、車を持っている人が一人もいないからねえ。もちろんガソリンスタンドなんてものもないし。ガソリンなんてこの村にはないですね。それとここから出る方法ですか。ここの道は一本道だから、西か東に行けばそのうち町に出ますけど」
同じような無表情。
声にも顔にも生気と言うものがまるで感じられない。
そしてコピーのように同じ回答だ。
「そうですか。わかりました。どうも」
陽介が中年女性を睨みつけるかのような目で見てそう言った。
背を向け歩き出す。
そのまま速足で歩き、向かったのはさらに次の家かと思ったら、自分の車だった。
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