【 人落ち 】


 しばらくの沈黙の後、彼が床にひざまずき、私に頭を下げてきた。


「わ、分かった……。悪かった、ごめん……。謝るよ。ただ……」


「ただ?」


「彼女の代わりに俺が飛び降りる。なっ、それでいいだろ……?」


「ふふふっ、分かったわ。それで手を打ってあげる。じゃあ、さっさとベランダから飛び降りて頂戴」


 彼は項垂うなだれたまま窓を開け、ベランダへと出る。

 外は2月の寒い夜。


 冷たい風が私のオレンジブラウンの髪を揺らした。


「さあ、飛び降りて。私に誠意を見せて」


「あ、ああ……」


 白い息を吐きながら、小刻みに震えた体をベランダの手すりへと乗せ、そこで立ち上がる。


「反省してね。光輝さん、大丈夫。あなたの丈夫なネットは、誰も死にはしないから」


 私の顔をチラリと見てから、彼は覚悟を決めて飛び降りた……。


「うわぁーーーーっ……!!」



『ドスン……』



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