【 軋む 】


 ――次の日。

 4階の自分の部屋で、昨日のことを思い出す。


 昨日、結局彼は私を抱いてくれなかった。

 というか、お腹が痛くてそれどころじゃなかったんだけど。


 たまには、やさしく私を抱いて欲しい。


 部屋にある時計の針は、22時を指している。

 もう、彼は会社から部屋へと帰ってきているはず。


 勇気を振り絞り、スマホで彼に電話をかけてみる。


「あっ、光輝さん。あの、今日、お部屋へ行ってもいい……?」

「ちょ、あっ、ごめん。今日疲れてるから、また今度でいいかな?」


「えっ? 今度?」

「ああ~、明後日とかならいいよ」


「あ、今後のことも相談したいし……」

「えっ? あ、今日はごめん。明後日にしてくれる?」


 会うのを断られてしまった。


「う、うん。分かった……」


 せっかく勇気を出して電話してみたのに。


 でも、先ほど光輝さんとの電話のやり取りに、少し違和感を覚えた。

 何か電話口付近に感じたもの……。


 微かに聞こえた音と声……。

 何か聞き覚えのあるきしむ音……。


 目を閉じると、それは彼と激しく愛し合ったあの場所での出来事として、鮮明に私の脳内に蘇らせた。



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