第10話
さて、道のりだが。
特別クラスを出てコンクリートの渡り廊下の先、本館の裏口から本館に入り廊下を左に進んでいくと、物理実験室、服飾調理室(なんで分けなかったんだろう家庭科の教室)、視聴覚室・・・は右に行った先だから道のりには出てこない。
で、突き当たりを右に折れ曲がるとしばらく廊下が続いて、正面玄関口に下駄箱が連なり、そのドン突きに職員室がある。
今は職員室に用は無いので、下駄箱で上履きに指定されているスニーカーから通学用の編み上げ安全靴に履き替え。
「なぁなぁ、オクスタンって内部構造どうなってんのかな!」
目をキラキラ輝かせて笹凪が聞いてくる。
俺が簀に腰掛けてブーツの紐を結んでいると、何故か俺の右肩に触れるほど真隣で同じように紐を結んで嬉しそうにしている笹凪。
コイツ自分が男っていう設定忘れてんじゃないだろうな。
「笹凪ってさあ、オクスタン好きだよね」
「はあ? 男ならオクスタン好きだろう。ロボットはロマンなんだぜ?」
「まあそれは否定しないけどよ」
紐を結び終えて俺が立ち上がると、結ぶ時間を合わせていたかのように笹凪も立ち上がって両手を腰に当ててちんまり仁王立ちして俺の顔を見上げてくる。
ロボットが好きなのは本当っぽいな。
「さて、それじゃあ格納庫に行ってみますかね」
「レッツゴー! おー!」
ひょこんと右手の拳を振り上げる笹凪。
止めて、お願い、可愛すぎて死んじゃいそう。
攻略本では超の付くツンキャラで性別完全にバレてから超の付くデレキャラになる、と書いてあったがすでにデレていらっしゃる。
まぁ、主にロボットにデレてるんだろうけど。しかもコイツが男設定のうちは俺のことなどただの男友達と思ってるだろうし、色々噂が立つし、手なんか出せないんだけどな。
無茶苦茶広い大グラウンドの縁を歩いて格納庫に向かうと、アスファルトの黄色ラインの外に六畳間くらいの大きさのグレーに塗装されたプレハブ小屋を見つけた。
「はやくはやく!」
笹凪は迷いなくプレハブに向かって小走りに。
仕方ない、俺も走るか。
「なあ笹凪、あのプレハブなんなんだ?」
「え? 轟知らなかったっけ?」
「轟沢な」
「あそこがオクスタン戦技教官の詰所、教員室なんだ」
「へぇ、格納庫の中じゃないんだな」
「格納庫は基本的に近付くの禁止されてるからねえ」
ああ、ちょこまか走る笹凪可愛いな。
後ろ姿を眺めているだけで癒される。
幸せタイム・・・。
一般グラウンドの先から、桃乃木杏香は長柄の庭箒と取手付きチリトリを持って玄関口に向かっていた。
杏香は清掃委員会に入っていて、清掃委員は放課後、校舎周辺の清掃を最後の仕事としている。
校内清掃は全校生徒で行うが、屋外に関しては月に一度の全体清掃日以外は清掃委員が行うことになっているからだ。
委員会の友達の女の子と並んで下駄箱の掃除用具入れに向かっていると、桜並木の向こうの大グラウンドに斗真の姿を見て箒を持った右手を振り上げて呼び止めようとして、
「おーっ!」
彼の少し先に小柄な男子生徒を見つけてピタと凍りつく。
「い?」
「杏香、どした?」
「え、あ、うん・・・」
小柄な男子生徒を凝視する。
桃乃木杏香は注意深く、感の効く女の子だ。
そして杏香の目には、男子生徒がどう見ても女子生徒に見えるのだった。
(誰よあの子!!)
遥か先の
無意識に走り出そうとして友達に肩を掴まれ止められる。
「ちょちょちょ、まったまった! あっちは兵隊科の生徒しか入れないっしょ!? あたしら普通科の生徒は接近禁止だって! 何があった!?」
「はっ!? そ、そうね・・・。知ってる生徒がいたからつい・・・」
「えーなになに!? 兵隊科にカレシいんのっ!?」
「やっ、そうゆうんじゃないからっ」
「隠すな隠すなこのう!」
「だから違うってば!!」
違うと言いつつも内心気が気でない。
(そもそも、こんな魅力的な幼馴染と同棲してるくせに手も出さないくせに! 誰よあの女!?)
桃乃木杏香。
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