三、宗助とアオ

 アオの傍にいる。

 そう決めた日から数日が経過した。

 この数日、アオの傍にいた宗助は不思議と腹も減らず、咳き込むこともなくなって健康そのものになっていた。


(不思議なこともあるものだ……)


 そう思いながら、宗助は社の外でじっと空を見つめているアオの後ろ姿を眺めていた。

 二人の間には余計な会話がなかった。しかし、ただ一緒に居て、一緒に眠る。それから起きて、また一緒に過ごす。

 そうして重ねる時間は穏やかで、心が安らぐものだった。


「アオ、そろそろ中へ入ろう」

「宗助……」


 宗助に声をかけられたアオの声が震えているように感じる。どうしたことだろうと宗助がアオを見やると、アオは一点を見つめたままだった。

 宗助がその視線を追うと、真っ黒な雪雲がこちらへと向かってきていた。


「雪雲だね。あれが、どうかしたのかい? アオ」

「……」


 宗助の言葉に珍しくアオは返事をしなかった。ただただ迫り来る雪雲を凝視している。


(雪雲に何があるというのだろう……?)


 その場から動こうとしないアオに疑問を持ちながら、宗助もアオの傍で雪雲を一緒に眺める。


「私が……」

「ん?」

「私が狂っても、傍に居てくれますか?」


 アオは今度は真っ直ぐに宗助の目を見つめる。宗助はその澄んだ視線にはっと息を飲んだ。真剣なアオの眼差しに釘付けになる。


「どうなんですか? 宗助」


 次に発せられたアオの言葉は不安から少し震えていた。宗助はその不安を断ち切るように、アオの両肩に手を置くと、


「どんなアオでも、僕は傍にいるよ」


 宗助からのその言葉を聞いたアオが柔らかく微笑む。

 日が沈んでいく。間もなく暗闇が迫ろうとしていた。

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