蒼月に舞う六花の恋
彩女莉瑠
一、村のしきたり、生贄
良く晴れた日の昼下がり。この日は日差しが温かく、毎日の寒さも幾分か和らいでいた。世の中は新政府の誕生だの、反政府軍だの、何かと物騒ではあったが、この
さて、そんな穏やかな村で育った宗助は村いちばんの
そう、村の子供たちにとっては、だ。
大人たちは宗助のことを腫れ物として扱っていた。幼い頃に流行病で両親を失っていた宗助は、村人総出で育てて貰っていたのだが幼い頃から病弱で、良く風邪を引いては寝込んでいた。
「雪女?」
その日、宗助の出た庭先に子供たちが集まり、村の言い伝えを宗助から聞いていた。今日のお題は『雪女』である。
この村には昔から、雪女伝説が言い伝えられていた。
「蒼い月に狂った雪女はね、この村に恐ろしい吹雪をもたらし、多くの人を凍え死なせるんだよ」
「え……?」
宗助の優しい声音で語られる壮絶な内容に、子供たちは絶句する。
「でも大丈夫。今度、蒼い月が昇った時は、僕が雪女とお話しして、正気に戻してあげるからね」
宗助はそう言うとにっこりと微笑む。子供たちはその笑顔に安心したようにその表情を明るくさせるのだった。
そう、この村にある雪女伝説には続きがあるのだ。
蒼い月が昇ると、雪女が狂い、正気を失う。それは宗助が子供たちに語った通りなのだが、その正気を失った雪女を元に戻すために村から一人、男を生贄として捧げることになっているのだ。
この生贄役が、宗助である。
病弱で畑仕事が満足にできない宗助を村人が大事に育てたのには、次に蒼い月が昇る時の生贄として、宗助を捧げるためだったのだ。
幼い頃からそう言う使命があることを言い渡されていた宗助は、何の疑問を抱くことなくこの年まで生きていたのだった。
そして穏やかだった昼間とは一変し、その日の夜、とうとう夜空に蒼い月が姿を現すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます