第8話 討伐作戦開始
カンテラを持った、ブラウニーの手引きで俺たちは
ジャンバラード城の城外から続く地下通路を進んでいた。
二メートル近いクライバーンは巨大な大斧を背負い
銀色の重鎧を着こみ、金属製のフルフェイスメットのバイザーまで降ろしているが
殆ど鎧がすれる音がしない。
特殊な素材と、特別な訓練をしたお陰だろう。
元鍛冶屋の俺は良く知っている。
この世界には、そういう素材の鎧と使い手たちが存在することを。
アヤノは黒装束と黒頭巾姿で両目以外は完全に隠している。
俺は、武装はブラウニーが渡してくれた銀製のナイフのみだ。
何キロも曲がりくねりながら続いた
ジメジメした土壁と木の支えのみの地下通路を歩き続けると
突き当りに、何もない石壁が現れた。
ブラウニーは迷うことなく、石壁の微かなくぼみに鍵を差し込む。
すると、ゆっくりと石壁が左へと開いていく。
半分ほどで動きが停止した石壁からブラウニーは鍵を抜きとると
俺に預ける。さらにカンテラをアヤノに渡すと
「では、皆様、ここからは作戦通りで。
私は、ヤマモトとタナベの気を逸らすために
ソワンベラまでこれから向かうとしよう」
俺たち三人が頷くと、ブラウニーは音も無く
真っ暗な来た道へと走り去っていった。
アヤノが小さく
「黒魔道師か……彼らの手を借りる日が来るとはな」
と言うと、影のようにスルッと石壁が開いた中へと入りこんでいく。
クライバーンが少し身をよじってそれに続き
最後に俺が音を立てないように慎重に入りこんだ。
中は石階段になっていて、地上へと延々と伸びていた。
先頭のアヤノはゆっくりと上っていきクライバーンと俺が続く。
最上段に到達したアヤノが
階段上を塞いでいた大きな金属の蓋を押しのけて、外へと出ると
朝日が射しこんでいるジャンバラード城内の広大な中庭の一角だった。
辺りには、鬱蒼とした木々が生えていて人目にはまだつかないが
アヤノが大きく腕と体を伸ばし、瞬く間に、刃先の短い刀を両手に持ち
「では、クライバーン歩兵長。やりますか」
クライバーンは背中の大斧を両手持ちしてアヤノと共に
静かに中庭の石畳が敷かれている通路へと進んでいく。
俺は作戦の手はず通りに、目立たないように腰を落としながら
二人を遠目に、中庭周辺を囲んでいる回廊を目指す。
チラッと振り向くと
中庭中心部の噴水へと到達した二人が立ち止まり
仁王立ちしたクライバーンが
「ウオオオオオオオォォォオオオオオオ!!
我こそは、"オースタニアの盾"クライバーン!
"千の耳目"アヤノと共に、煉獄の悪魔、オクカワ・ミノリの首を貰いに仕った!」
大声で自分たちの所在を告げたところだった。
ほぼ同時に、中庭を囲む回廊のあらゆるところから
数百名の衛兵たちがどっと沸きでてきて二人を一斉に目指す。
……予想通り待ち伏せだ。オクカワは俺たちが
秘密通路に入った瞬間に、風の諜報魔法である
"ピーピングリム"から情報を受け取って城を占領している帝国兵たちを
中庭周辺の回廊に伏せさせていたのだ。
そして、これはブラウニーの作戦の想定内である。
もう少しで回廊に到達する場所まで中庭の通路を歩いていた俺は
こちらへと向かってくる無表情の兵士の一人から
すれ違い様に槍で、正確に心臓を貫かれその場に倒れた。
……
パチッと目を覚ます。
辺りは怒号が飛び交っている。
中庭中心部では、まだ二人が兵士たち戦っているようだ。
良かった、蘇生までの時間はそうかかっていない。
アンデッドの俺は、心臓を貫かれても死なないのだ。
……急がなければ。
俺はすぐ近くに、人けのないことを確認して
ゆっくりと立ち上がり、そして回廊へと駆けだす。服は血で汚れていない。
幸い槍で突かれたので、破れも目立たない。
上着で破れを隠して、長い回廊を城内に向け必死に逃げている振りをすると
士官らしき、緑色の制服の屈強な男から呼び止められた。
背後には二人の武装して槍を持った衛兵が控えている。
「おいっ!ここで何をしているのだ!」
「へぇ……すいません……中庭の仕事に行こうとしたら
兵隊さんたちが居て、びっくりして……」
身体を屈めて、恐縮している感じを出す。
「チッ、伝達ミスか。おい、お前!」
「へい……」
男は俺を睨みつけると、黙って右手を差し出した。
俺は用意していた金貨を男の手に握らす。彼は満足そうに
「……さっさと行けっ」
俺は素早く、回廊を駆け始める。ブラウニーの情報によれば
今の士官風の男は、オクカワに
占領統治の補佐で帝国が付けたアラナバル・ヴィーナ大佐だ。
優秀なのだが、金に汚いのは有名である。
オクカワ・ミノリには反感を持っているので
急遽言いつけられた待ち伏せ作戦を完璧に遂行しようとは思っていない。
怜悧なオクカワは間違いなく、この戦闘中に見慣れない者が居れば
全て殺すか捕まえろと指示を出しているはずだ。
彼でなければ今頃俺は、牢屋に連行されていただろう。
ブラウニーからは遭遇時には金貨を渡せと言われていたが
早くもそのアドバイスで助かった幸運に感謝する。
俺は城内のホールへと駆け込み。右往左往するメイドたちのなか
焦ったふりをして駆け抜けて行き
狭い使用人専用の螺旋階段で一気に城の最上階まで駆け上がる。
城内の地図は三日間の作戦の予習で完璧に頭の中に入っている。
あのガキどもを絶対殺すという強い目的があるので
簡単に覚えられたあとも、何度も見直した。
最上階へと駆け上がり、使用に専用の狭い通路から
カーペットの敷かれて調度品が飾られている豪華な廊下へと出ていく。
そして、元王妃の部屋であった、現オクカワ・ミノリの居室へと俺は走る。
作戦の通りなら、彼女は今、ここに居ない。
今頃、中庭で派手に立ち回る二人の前に現れて
あの美しい庭園を破壊しながら
ブラウニーから魔法防御の護符を山ほど体中に貼られ
属性防御魔法を重ね掛けされた二人の相手をしているはずだ。
……だが、もし、もしも、この居室にオクカワが居たら
そこで作戦は全て終了だ。俺は緊張しながら、ドアノブを回す。
鍵はかかっていない。
静かに重厚な木造の扉は開いた。
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