第6話
手術の直前、私は手紙を枕の下に入れた
それを彗耶が読まずにすむことを祈りながら手術に挑んだ
長時間に及ぶ手術の途中で彗耶は会社から駆けつけた
仕事に集中できない彗耶に社長が理由を問いただし、手術のことを知ると『そんな大切なときに仕事なんかしてる場合じゃないだろう』と追い返されたのだ
扉の前で彗耶は祈りながら待っていた
『バタン』
突然扉が開いて先生が出てきた
『成功ですよ』
先生はそう言って笑った
『ありがとうございます』
彗耶はそう言って深く頭を下げた
『彼女の生命力には驚きましたよ。彼女にあれだけの生命力が無ければこの成功は無かった。ただ…』
そこまで言った先生の表情が曇った
『ただなんですか?』
『残念ですが状態は思った以上に悪く、今回の手術でも延命しか出来ませんでした』
『え…?』
彗耶の手からカバンが落ちた
『彼女の命はもって3年です』
『そんな…』
呆然とする彗耶を置いて先生は戻っていった
彗耶は壁を殴りつけた
その目からは涙がこぼれていた
「ん…」
病室で私が目を覚ますと彗耶が手を握り締めていた
「彗耶私…」
「とりあえず成功だよ」
そういった彗耶の表情は曇っていた
「とりあえず?」
私は彗耶に尋ねた
「…思ったより状態が悪くて完治はしなかった」
その彗耶の言葉に私はあまり驚かなかった
そんな結果をどこかで予想していたからだ
ただでさえ最初に先刻された期限よりも余分に生きてきたのだ
手術が成功して完治するなど夢でしかなかったのだ
それでも少しでも長く生きたくて手術を受ける決心をしたのだから
「…後どれくらい?」
「…もって3年」
そう言った彗耶の声は震えていた
「そう。3年も生きられるんだね」
「亜紗美?」
思いもしなかっただろう言葉に彗耶は唖然とする
「だってそうでしょ?本当なら2年前に死んでたのにあと3年は生きられるの。あと3年は彗耶と過ごせる」
私は自分でも驚くほど冷静だった
「亜紗美?」
「いつ死ぬかわからない恐怖と戦うよりよっぽど楽だもの。やっぱり手術は成功だわ」
「つらくないのか?」
彗耶の言葉にドキッとする
「…つらくないわけ無いじゃない。でも悲しんでても何も変わらないんだよ?
だったら与えられた時間を精一杯…後悔しないように生きたい」
私は彗耶の目を見て言った
すると彗耶は大きくため息をついた
「…わかった。精一杯生きよう」
「彗耶?」
「後悔しないように精一杯…」
彗耶は最後は言葉に出きず私を抱きしめた
その日から私と彗耶はいつ終わりの日が来ても後悔しないように精一杯楽しんだ
彗耶の会社の人や近所の人はそんな私たちを温かく見守ってくれていた
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