最後の願い

真那月 凜

第1話

「亜紗美!」

「由紀子帰るの?」

「うん。亜紗美は?」

「私も帰るとこ。彗耶ももうすぐ来るよ」

「じゃぁ3人で帰ろっか」

「そだね」

私はそう言って微笑んだ


「ねぇ亜紗美」

「何?」

由紀子の方を見ると少し深刻そうな顔をしていた


「亜紗美はさ、彗耶君の事…」

「え?」

「彗耶君ってどう見ても亜紗美の事好きそうだし」

私は心臓が脈打つのを感じた


「何言ってんのよ。彗耶の事好きなのは由紀子でしょ?」

私はごまかすように言う


「でも…」

「馬鹿いわないの。あ。彗耶来たよ。彗耶!」

「よう」

校舎から出てきた彼は軽く手を挙げた


「亜紗美これ隆文から」

「ありがとー。やっと帰ってきた」

CDを受け取って言う


「何貸してたの?」

「オリジナルだよ。クリスマスソングの」

「本当に?私も聞きたい」

「う~ん。じゃぁ今日聞きに来る?」

「いいの?」

由紀子の尋ね方は断れない何かがある


「駄目なら言わないよ」

「そっか。じゃぁ行く」

「俺にも聞かせろよ」

「聞かせろ?聞かせてくださいでしょ?」

私はからかうように言う


「なんてね。いいよ。どうしようかこのまま来る?」

「ついでに亜紗美の料理が食べたいな。そう思わない、彗耶君?」

「いいなそれ」

彗耶はそう言ってにっと笑った


「わかりました。作りますぅ」

私は少しふくれて見せる


「そのかし買出し付き合ってよね」

「OK」

彗耶は笑顔でそう言った


私たちは3人でスーパーに向かった

「何食べたい?」

「んーとねぇぶり大根」

「ぶり大根?何でまた…」

「和食に飢えてるの」

由紀子が苦笑する


「そいや由紀子のご両親フランス料理大好きなんだっけ?」

「そ。最近フルコースばっかりでやんなっちゃう」

「金持ちはいう事違うなぁ?」

彗耶がため息混じりに言う


「本当だね。彗耶もそれでいい?」

「俺は何でも」

「そ。わかった」

私は頷くと材料を籠に詰めだした


「貸せよ」

彗耶が籠を奪うようにとった


「あ、ありがと」

少し驚きながらも私は籠から手を離した

そのやり取りを淋しそうに眺める由紀子の視線が痛かった


「おいしかったー。やっぱり亜紗美ってその辺のシェフより料理うまいよね」

「おだてても何も出ないよ」

「本当だって。ねぇ彗耶君?」

「あぁ」

彗耶は頷いてお茶を飲み干した


「それはどうも」

「あ、私ちょっとお手洗い」

由紀子がそう言ってリビングを出て行った


「…亜紗美」

「ん?」

食器をまとめながら顔をあげると真剣な表情の彗耶と目が合った


「就職決まった」

「本当に?どこ?」

私は手を止めた


「カナダ」

「…え?」

彗耶の言葉が胸を貫いた

信じられない言葉を聞いたような気がした


「3月の中ごろに発つんだ」

「うそ…でしょ?」

声が震える

でも彗耶の目は真実だと語っていた


「…一緒に来いよ」

「え?」

「卒業したら一緒にカナダに来てくれ」

彗耶の声も震えていた


その時由紀子が戻ってきた

「どうかしたの?」

沈黙していた私たちに尋ねた


「なんでもないよ。果物食べる?」

「食べる」

「じゃぁもって来るね」

私は逃げるようにリビングを出た


2人から死角にあるキッチンでしゃがみこむ

「うそぉ…」

心のどこかで望んでいた言葉だった


由紀子にはごまかしても私の心の中には高2の時から彗耶しかいなかった

だけど私にはそれを口にすることは出来ないことも自覚していた


あふれそうな涙を必死でこらえてラフランスを剥くと再びリビングに戻った

「ラフランスだよぉ」

私は笑顔を作ってテーブルに置いた


「すごーい。おいしそー」

由紀子は真っ先に食べ始める


「おいしー!」

一口でほおばって幸せそうに言う


でもその目が少し赤かった

「由紀子どうかした?」

「え?」

「何か目が赤いから」

その言葉に由紀子が明らかにビクッとしたのがわかった


「…何でもないよ。何かかゆくって」

「…そう?ならいいけど」

私はそれ以上聞いても無駄だと思い聞くのを辞めた


その時由紀子の携帯がなった

「ごめん私帰るわ」

「どうかしたの?」

「ちょっとね。親が帰って来いって。ご馳走様」

由紀子は慌てて飛び出していった


彗耶と2人きりになった私は暫く沈黙していた

「…さっき由紀子に何か言った?」

気になっていたことを口にした


「…告白されたから俺は亜紗美が好きだからって断った」

彗耶はそう言った


私はどこかで予想していただけにあまり驚くことは無かった

「そう…」

ただその言葉しか出てこなかった


「さっきの返事を急ぐつもりはない。でも真剣に考えてくれ」

「私は…」

私はその後の言葉を言えなかった


「私は?」

問い詰めるように彗耶は私の言葉を繰り返す


「…私は誰とも付き合えないよ」

私は静かに言った


「どういう意味だよ?」

明らかにむっとしているのがわかる


「…明日昼から付き合ってくれる?」

「そりゃかまわねぇけど…?」

彗耶は首をかしげた


私はそれに気づかないふりをして彗耶から目をそらした

「その時に全部話す」

「…わかったよ。今日は帰るよ」

彗耶はそう言うと帰って行った

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