第8話 私は冒険に出たい
「よし、俺とパーティーを組もう!」
すかさずオージンはフィアットの提案を受け入れ、その肩に馴れ馴れしく腕を回した。
タリアという美女魔法使いに横取りされないように、しっかりと確保する。
「た、確かに、このおっさんも始まりのダンジョンを希望してるけど……」
「はい、決定、決定! 嬢ちゃん、これで条件はクリアだよな? さあ、さっそくダンジョンに向かおう」
「あっ、ちょっと、おっさん!」
窓口嬢だけでなくタリアも文句を言いたそうにしていたが、彼女たちの口が開く前にオージンはフィアットを半ば羽交い絞めにする形で引きずり、大股歩きで冒険者ギルドの建物を出た。
(よぉし、これで冒険者としての一歩を踏み出せるわ!)
「ちょ、ちょっと……おじさん、腕を離してください」
「おお、悪い、悪い」
しばらく引きずって歩いたところで、ようやくオージンは腕を解放した。首を締め付けられて、苦しそうにフィアットが咳き込む。
「これからよろしく頼む。俺の名前はゴリム・オージンだ」
「ケホケホッ……フィアットです」
「助かったよ。仲間が見つからなくて困っていたんだ」
「――って、おじさんも駆け出しの冒険者なんですか? てっきり、熟練者かと――」
慌ててオージンは首を振る。
「大丈夫、足手まといにはならないように頑張るから」
本当に大丈夫だろうかと、疑うような眼差しが飛んでくる。
(そうよね、不安よね。新しくバイトで入って、大先輩だと思ったら自分と同じくペーペーのおじさんがいたら、そりゃやりづらいって思うよね)
それでもオージンには貴重な仲間なので、嫌われないようにと彼を丁寧に扱うことを心掛けた。
「まあ……いいですけど。僕も急いでいるので、この際誰でも」
少しだけ不満が残るような口調だったが、フィアットは乱れたローブの裾を払って身だしなみを整えた。
そのローブは上質なものだが、年季が入っているようでところどころほころびている。
「急いでる? 何か事情でもあるのか」
オージンが聞き返すと、負わず口走ったことを拾われるとは思わなかったようで、フィアットは目を逸らした。
その時、二人の会話を引き裂くように、元気な声が背後から響いてくる。
「ちょっとあんたたち、待ちなさーい!」
息を切らして走って来たのは、冒険者ギルドの窓口嬢だ。
無理やり飛び出したきたので「パーティーは無効です」と言われるのではないかとオージンは焦り、逃げようかと周囲を見回す。
追いついた窓口嬢は、二人の前に鞄を突き出した。
「これ、初心者用の回復ポーションと、周辺地図よ。いざという時の脱出魔晶石や非常食とか入ってるから、持っていって」
なんと、彼女はわざわざ初心者冒険セット届けるために息せき切って駆けてきたのである。
ツンツンしているようで、本当は心優しい窓口嬢に、オージンは感動して胸が熱くなった。
「すまない、嬢ちゃん。ありがとう」
「てか、おっさん! フィアットさんに何かあったらタダじゃ済まさないんだからね!」
「えぇっ!? だから俺は怪しい奴じゃないって――」
「フィアットさん、もし身の危険を感じたら、このおっさんを盾にして、一人で脱出してくださいね。というか、モンスターよりもおっさんの方が危険そうだけど!」
「わかりました」
「ちょ、ぼうずもなに返事してんだ! 俺は怪しくないっ!」
やんやと騒ぐ三人に、行き交う人々が足を止めて振り返った。
こうして、オージンの冒険は賑やかに始まったのである。
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