351 御印の光輪①
だがディノは突然、口を押さえて崩れ折れた。苦しそうな息遣いが響く。ディノは手をかざし、なんとか持ちこたえようとしていたが、魔力は儚く消えていった。
ジェーンは一部だけ細くなった手錠をベッド柵に叩きつけて割った。そしてやわらかく加工しておいたことを利用し、隙間を引っ張って広げる。
片手が外れた。
もう片方も外そうとした時、首筋にひたりと冷たいものをあてがわれる。横目で見たそれはナイフだった。
「そこまでです、ロジャー様。ディノくん。悪あがきはおやめなさい」
ディノが顔を起こした。そのわずかな仕草にもロンは反応し、ナイフをジェーンへ近づける。そして大きなため息をついた。失望と疲れがにじむものだった。
「僕は悲しいよ、ディノくん。ここまでしてもわかってもらえないなんて」
「あんたがなにをしてこようと、わかり合う気はない。あんたこそ悪あがきはやめろ」
「そうかな? 僕に痛めつけられる彼女を見ても?」
突然、ジェーンはロンに胸倉を掴まれた。振り向かされた先にナイフの光沢が見えて、思わず目をつむる。
「ひ……っ!」
ブツリ、と音が聞こえてきたのは首元からだった。次の瞬間服を力任せに引っ張られて、布の裂ける鈍い悲鳴が響く。
やだ。やめて。
叫びそうになった弱音をすんでのところで押し殺した。服を破くロンの手に爪を立てる。しわがれた老人の手はしかし、それだけでは引き下がらない。
「やめろっ!」
ロンの手が止まる。ジェーンはキャミソールを裂けた布をたぐり寄せて隠した。おそるおそる見上げたロンの顔は、勝利を確信した笑みで歪んでいた。
「それじゃあディノくん、僕に従ってロジャー様と性交してくれるね? 僕だとうっかり傷つけてしまいかねないよ」
ディノはゆっくりと立ち上がった。パキリとガラス片の割れる音がこぼれる。若葉の目がちらりとジェーンを見た。とたん苦しげに強張った表情は、うつむいて垂れ下がった髪に隠される。
「ディノ……」
そうしてずっと戦っていたのですか。
ロンの狂気じみた野望に抗い、傷を負い、孤独に耐え、覚悟を決めて逃げろと伝えにきてくれた。父と慕い愛する人を相手に、それはどんなに辛く苦しいことだっただろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます