283 It's show time④

 慌てて駆け寄ってきたノーマンに助け起こされつつ、ジェーンはぶすりとラルフをにらむ。悪い悪い、と笑っている花粉症先輩の横には、レイジとニコライの姿もあった。

 整備部のみんなでショーを観に来てくれたらしい。


「やばいってどういうことですか、ラルフさん。お客さんの反応、悪かったですか?」

「え。違う違う! すごいってことだ。リハを何度か見てる俺だって興奮したんだぞ! そりゃあり得ねえだろ!」

「確かにすごかった。だがひとつ気になる点がある」


 興奮するラルフの肩を叩いてなだめ、ニコライが進み出る。

 そこへぞろぞろと足音が聞こえてきた。舞台上に戻ってきた演劇部員たちだ。誰もがみんな汗が浮かぶ顔に、達成の喜びと自信をきらめかせている。


「シャルドネが放った攻撃。あれがロジャー王のマントを破ったのは事故か?」


 ニコライは舞台演出の危険性を指摘する。

 現に客席はあの場面でどよめいた。危険の中に潜む快感は、安全が約束されてこそ成り立つ。客を驚かせることと、不安がらせることは大きく違う。

 客を第一に考えるニコライの冷静な眼差しに対し、ジェーンはにんまりと笑った。


「あれは狙ってやったんですよ、ニコライ部長」


 ゆったりと近づいてきた足音の主が、先に答えた。黒い衣装に身を包み、金髪のウィッグと青いカラーコンタクトをはめたダグラスは、ジェーンに目配せして笑った。


「ジェーンと練習をくり返してコツを掴みました。何度やってもマントだけに当てる自信があります」

「マントはすぐ外れるように改良したしね!」


 演者たちといっしょにひかえていたクリスが駆け寄ってきた。彼は破れたロジャー王のマントを掲げてみせる。

 気づけばジェーンの肩に、カレンとプルメリアの手が添えられていた。着ぐるみの頭を取ったルークも晴々しい表情をしている。


「どおーよ。俺たちの作品は」


 ダンサーたちの肩を両腕で抱えて、ジャスパーは挑むようにニコライへ投げかけた。


「……あれがわざととは、恐れ入った。創造魔法だけじゃない。お前たちのチームワークがあってこその舞台なんだな。評価はもちろん――」


 そこで言葉を切り、ニコライはラルフとノーマン、レイジを見やった。

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