184 雨のカーテンに包まれて①

 目を見開いてカレンは振り向いた。レモン色の光彩が迷うように揺れ、ぴんと張った水面にしばし静寂が降りる。


「……わからないわ。でも売れるためには、正しい道だと思う」


 そう答えたカレンは取り繕うようにオールを持ち、ゆっくりとこぎはじめた。ルームメイトたちに船尾を向けて、ボートは湖の中心へ進む。カレンは自身の心と向き合うようにうつむいていた。

 ジェーンもまた遠くの山並みを見つめて思考を巡らせる。

 “私”ってなんだろう?




 ボートを降りて、湖周辺の遊歩道を散策している途中、雨が降り出した。そばの木で雨宿りしながら空を見上げ、ぶ厚い雨雲にルームメイトたちは眉を下げる。

 やみそうもない気配に、今日は帰ろうという運びになった。


「私、傘創りますから、ちょっと待っててください」

「お、さすがジェーンちゃん。頼りになるっス!」


 調子よくおだてるルークに笑みを返して、しゅるしゅるととぐろを巻いた柄を創る。その先端がぷっくりと膨れ、みるみる大きくなり弾けた。桃色のガーベラを模したビニールの花弁が咲く。


「わあっ。素敵!」


 跳び跳ねて喜んでくれたプルメリアにそれを渡し、次を創ろうとした時カレンが声を上げた。


「ジェーン、創るのは三本でいいわ」

「え。でも」

「消すの大変でしょ。ふたりずつ差せばいいわよ。ねえ?」


 カレンが同意を求めると、ルームメイトたちは快くうなずく。そういうことならと、ジェーンは黄色と白のガーベラ傘を創った。


「で。どう分かれるっスか?」

「よし。今度こそ俺はジェ――」

「プルメリア、私と入りましょ」

「わわっ!?」


 ディノがなにごとか言った時、ジェーンはプルメリアへ振り返ったカレンに突き飛ばされた。その先にいたのはなんとダグラスだ。思いきり胸板に飛び込んでしまい、受けとめられる。


「だ、だいじょうぶか?」


 ジェーンはさっと身を引き、胸を押さえた。絶対当たってしまった。すみません、と返事するついでにダグラスをうかがい見ると、紫の目が泳いで逸らされる。

 首まで熱くなりながら、ジェーンはカレンをにらんだ。確信犯はほくそ笑んでいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る