74 晴れ時々スコール……③
ロンはアナベラと違って人をあごで使う人物ではない。怒りが、わかってもらえない悔しさに変わる。だがジェーンは弱気になる心を拳を握って奮い起こし、再びアナベラに挑みかかろうとした。
バンッ。
その時、なにかを叩きつける音が事務所内に響く。見るとバインダーとスケッチブックを持ったクリスが、勢いよく席から立ち上がった。
彼は青い目でジェーンをにらみ、大股で近づいてくる。
中性的な整った顔立ちが目前まで迫った次の瞬間、ジェーンはバインダーで頭をはたかれた。痛いと訴える間もなく今度は後頭部を掴まれて、アナベラに向かって無理やり頭を下げさせられる。
「すみません、アナベラ部長。後輩が出過ぎたまねをしました。先輩として僕からよく指導しておきますので、今回は見逃してください」
抗議しようと目を上向けた時、クリスまでもが深々と
「ふん。まあ、いいだろう。二度と口答えするんじゃないよ。私はいつだってお前をクビにできるんだからね、ジェエエエン」
腰に手をやり、見下してくるアナベラにジェーンは奥歯を噛む。クリスの手がさらに力を込めてきた意味を察し、しぶしぶ「わかりました」と答えた。
それでいい、と言うかのようにクリスは手を離し、口を開く。
「ありがとうございます。それと演劇部の依頼が多いのでジェーンを連れていっても構いませんでしょうか」
「……まあ、事務所でボケッと突っ立ってられるのも目障りだからね。好きにしな。大した役には立たないだろうけど」
仕事を与えられないなりに、雑用を一生懸命やってきたと思っていたジェーンの心に、アナベラの言葉が突き刺さる。放心するジェーンの手を取り、クリスはきびきびと事務所を出た。
クリスに手を引かれるままジェーンは足を動かす。どこへ向かうかもわからない足先がコツコツと床を打つ度、頭の中が冷えきっていく。
トイレ掃除をいくらがんばっても無駄だったのだろうか。どんな雑用も引き受けてきたのに、アナベラの目にはなにもしてないと映っていたのか。
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