42 新人の仕事?⑤
「これくらいで威張るんじゃないよ」
そう吐き捨ててアナベラはきびすを返す。どうやら合格点をもらえたらしいと知り、ジェーンは小さく拳を握って跳び跳ねた。
「あ。そうそう」
ところが、手洗い場へ消えたと思ったアナベラが再び姿を表す。赤い口紅を差した唇はにんまりと弧を描いていた。
「お前、当然男子トイレも掃除したんだろうね」
「え! だって私女子ですよ!? そっちは男性がやるんじゃないんですか」
「新人はお前しかいないんだ。お前がやるに決まってるだろ」
アナベラは腕時計を見て笑みを深める。
「昼休みまで二十分か。終わるといいねえ」
男子トイレの掃除は二十分で終われなかった。道具のありかや使い方は覚えたものの、便器の数は女子の二倍だ。作業量が違い過ぎる。
加えて昼休みになると利用者が増えた。ジェーンが個室に引っ込んでいる間に、清掃中の看板に気づかず入ってきた男性従業員と鉢合わせて何度悲鳴を上げたことか。
昼休み残り十分というところでやっと清掃完了し、中央食堂へ向かう頃にはへろへろになっていた。
「ああジェーンくん、よかった! もう来ないかと心配したよ」
「ロンえんちょおおお」
食堂前に立ち、ジェーンに向かって笑顔で手を振るロンが神々しく映った。駆け寄るままに飛びつきたい衝動を堪え、ジェーンは遅れたことを詫びる。
ロンは心配顔で首をかしげた。
「どうしたんだい。そんなに大変な仕事を任されたの?」
「いえ、ちょっとトイレが難しくて……」
ロンはますます怪訝な顔つきをした。しかし創造魔法士として活躍を期待してくれている恩人に、トイレ掃除も手間取っているとは恥ずかしくて言えなかった。
ロンはハタと腕時計を気にして、手に持っていた紙袋を差し出す。
「もうゆっくり食べる時間はないと思って、サンドイッチを買ったんだ」
「えっ。ごちそうになっていいんですか!?」
青緑の目がぱちくりと瞬く。次の瞬間ロンは口に手をあて、くすぐったそうにころころと笑った。
「いいもなにも、ジェーンくんは給料日が来るまでごはん買えないよ」
「あ。そうでした」
「払うつもりでいたのかい。でも
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