第9話
舞弥が魔法を覚えた数日後、ヴィクトリカがダンジョンへ行こうと提案した。
「ヴィクトリカが生きたいのならいいよ。護ってくれるのでしょう」
「勿論さ、マヤには傷ひとつつけないと誓うよ」
戦闘力0から魔法をおぼえようやく1になったばかりのばかりの舞弥は、自分が戦闘で全く役に立たないことくらい分かっている。それでも危険なダンジョンに行くことを即決したのはヴィクトリカが一緒だから。彼女は何が合っても自分を護ってくれる。そう信じているから舞弥はどこへだって行ける。ダンジョンに対する恐怖もほとんどない。
ヴィクトリカもそんな舞弥の気持ちを理解している。それに応えたいという思いもあるが、当然、ヴィクトリカの原動力はそれだけではない。単純に舞弥に今以上に好かれたい、依存させたい。そういった下心もヴィクトリカの原動力の一つだ。むしろ、後者の方が占める割合が多い。無実の罪で犯罪者として追放されたヴィクトリカは、唯一自分のことを信頼してくれる舞弥をそばに置いておくためなら何でもするつもりだ。
舞弥に魔法を教えはじめた翌日から舞弥に気付かれないよう少しずつダンジョンを探していたヴィクトリカはすでにダンジョンの入り口を見つけていた。
ヴィクトリカの案内でダンジョンに移動する。
ダンジョンには1時間ほどで到着した。
ダンジョンの周辺は不毛の地で、雑草ひとつ生えていない。さらにその周辺には動物や食べることのできる植物が存在しない。土地もボロボロで家を建てることも難しい。
「マナがグチャしていて気持ち悪い」
ダンジョンから溢れ出るマナに酔い、舞弥は口元を押さえる。顔色を悪くし、マナをグルグルと回して遊んでいた時比べても変わらないほどだ。
ヴィクトリカも舞弥ほどではないが気持ち悪そうな顔をしている。
マナに敏感な人はダンジョンに近づけば近づくほど気分が悪くなる。
「早くダンジョンに入ろう。そうしたら気分が良くなるから」
ヴィクトリカは気分が悪く動くことのできない舞弥の手を引っ張りダンジョンの中に入っていく。
ダンジョンにはいると二人の顔色が元に戻る。
ダンジョン内部はマナが安定しており、マナに敏感な人であっても体調を崩すことはない。
「少し休憩してから探索をしようか。マナ酔いがなくなったとはいえまだ少し気分が悪いだろう?」
壁にもたれかかり数分休憩する。
ヴィクトリカの手をかりて立ち上がった舞弥はスカートに付いた汚れを払う。
舞弥はヴィクトリカの左を歩き、ダンジョンを進んでいく。
ダンジョンには魔物がいるとヴィクトリカから聞いていた舞弥は、全く魔物が出てこないことに疑問を持つ。
「ダンジョンには魔物がいるのよね? かなり歩いたと思うのだけど……」
「それは私も不思議に思っている。普通は一階層からスライムやトードなどの弱い魔物が出てくるのだが、このダンジョンでは出てこないみたいだな。探知魔法を使っているが魔物の気配が全くない。ただ、面倒なことにダンジョンの内部構成が一定時間ごとに変化している。ただでさせ迷路のようなのにややこしい。これではマッピングする意味がない。…… 小屋にダンジョンのマップが無かったこで気がつくべきだった。すまない、これは私の失態だ」
ダンジョン経験者のヴィクトリカがややこしいと言ったことに舞弥は僅かに震える。本人は気付いていないが舞弥本人よりも舞弥のことを知っているヴィクトリカはそっと手を添える。
ハッとヴィクトリカを見た舞弥はその手を握る。
手を握られたヴィクトリカはフッと微笑んだ。
いつの間にか舞弥の震えは止まっていた。
数時間ダンジョンを探索したが、二階層に続く階段を見つけることができなかった。
ダンジョンの階層が上に続くか、下に続いていくかはそのダンジョンによると言われている。どちらの方が難易度が高いなどは決まっていない。なぜダンジョンによって降っていくか、昇っていくかは当時の神のみぞ知る。
ダンジョンを進んでいく時とは比べ物にならないほど簡単に出口を見つけることができた。何か不思議な力が作用していると考えてしまうほどだ。
ダンジョンから出ると荒れ狂ったマナに酔う。ダンジョンに近づくごとに徐々に気分が悪くなっていった行きとは違い、マナの落ち着いたダンジョン内からマナの嵐にいきなり晒されたことによって行き以上に気分が悪くなる。
ヴィクトリカは元王女の威厳を見せたが、よりマナに敏感な舞弥はダンジョンから出た瞬間に乙女の尊厳を失ってしまった。
その後はヴィクトリカに運ばれ小屋に戻った。
小屋に戻った後も舞弥は己の失態に涙を流していた。
膝を抱えて涙を流している舞弥の顔を上げ、ヴィクトリカは唇を奪う。口を濯ぐことを忘れていたのか僅かに酸の味を感じるがヴィクトリカは気にする事なく舌を入れる。
己の口内が汚いと思っている舞弥は最初こそ抵抗を見せたが、ヴィクトリカ表情を見た瞬間抵抗することがバカらしくなり受け入れる。ふたりの唾液が混じり合い、徐々に酸の味も消えていく。完全に嫌な味が消える頃には乙女の尊厳が失われた瞬間の記憶など舞弥から消え去っていた。
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