第4話
《碧!ついて来てるな!?》
「いきなり逸れませんよ!」
シュナイダー小隊長が隊員たちの状況を確認し、襲いかかる艦を決める。ミサイルなど敵弾から艦隊を守る、護衛艦に照準を合わせた。
「食らいやがれ!」
コメートの主砲は射程は無いが、接近して当てれば戦艦の装甲すら貫通するレールガンを1門、機体胴体下に抱いている。1000メートル以内の近距離から放つ。
「艦長!敵機、砲塔を向けています!機体重量の推量に比べ、明らかに過大な砲です!」
「何ィ!回避行動!」
「駄目です、近すぎる!」
護衛艦は戦艦並みに装甲が厚めに設定され、対空砲火の主力。しかし、穴はある。
「下を突くぞ!」
最低でも実寸で150mを超える艦隊型宇宙艦は、動きが遅い。それは攻める方も守る方も同じなので、宇宙空間の砲撃戦とは言え、前後左右で互いに視認し合っての撃ち合いが主である。つまり、立体的に艦の上部下部から来る奇襲に耐え得るような備えはあまりしていない。その弱点に3000mの距離から一気に舵を切って突入していく。
≪碧!弾幕は薄いが当たるなよ!≫
「分かってますよ!」
艦体の上部と下部には対空砲火用の火砲も少ない。最高速度に乗せ、何もかもを置き去りにするかのように。距離は2000、1000と近づいて行く。
「当たれ!」
碧は引き寄せたトリガーの引き金を引く。シミュレーションで、実機で、何度も練習してきた。人が乗った標的を狙うのは初めてだ―――
宇宙空間なので、音はしない。しかし、振動は感じていた。
「う、わ…!」
ガタガタと震える機体、操縦桿が持って行かれそうになる。大爆発だ。三条の電磁砲弾は真っ直ぐに護衛艦を切り裂き、爆沈せしめたのだ。
≪碧!当たったぞ!やるな!≫
≪そうよ!あなたが当てなきゃ、あの艦まだ生きてたかも!≫
ベテラン2人は興奮しているようだ。2人とも元は戦艦の砲術科兵で、主砲の照準を合わせる測距儀を操作していたらしい。その時にはこんな大きな艦を沈めたことは無かったと。
「当てた…」
ホッと、トリガーから手を放した碧の脳裏に、ノイズが走った。
「なっ!?」
無数の人の声。叫び、悲鳴、断末魔。一瞬で過ぎ去っていった。
「な、に…?」
呆然としている碧を、さらに振動が襲った。
「わあっ!?」
≪どうした、碧!?≫
≪シュナイダー、被弾したわ!≫
リーラが緊迫した声で小隊長機と母艦に連絡を取る。碧も慌てて機体のチェックを行う。
「え、エンジンは生きてます!右翼が反応していません!」
≪そうか、わかった。リーラ、碧の後ろに付け。俺は別の小隊に参加してもう一発お見舞いしてくる≫
≪シュナイダー、深入りしちゃダメよ?≫
≪わかってる。死にゃあしない≫
被弾した碧はリーラ機に守られ、一足早くアルトナへ帰投することになった。
「やられちゃった…ごめんなさい」
≪大丈夫、仕事はした後だったんだもの。それに、戦いはこの1度で終わるはずもないわ≫
「いつ、終わるんですかね…」
さっき聞いた断末魔は、なんとなく撃った敵の声だと思った。新兵にはああいう声も聞こえるものなのだろうと、なんとなく納得した碧である。
≪敵を1人残らず撃ち果たした後、かしらね?わかんないわよ。政治家たちが決めることなんだし≫
少なくとも、彼女らが心配することでも、考慮すべきことでもない。自分たちの手の届かぬどこかで話し合われ、決められること。そう思わないと兵士は続けられないと、言外に言っていた。
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