第2話 ハレの降る

わたしは雨が好きだ。


ばしゃばしゃと水しぶきをあげる地面、水を滴らせる植物たち、雨の中跳ねるように進む少女。


そして、曇り空。決して明るくない空、でも雨粒が光を乱反射してこの街を太陽の代わりに照らしている。


雨の日はいつも、何もかもがしっとりと濡れていて、わたしの乾いたこころに感情を呼び戻くれる。


傘から飛び出た長い髪が濡れてしまうのも構わずに、わたしは雨の日を楽しんでいた。




それなのに、晴れてしまうだなんて!


わたしは、急いで影になるところに避難した。


カバンの中を掻き回すも日焼け止めは見つからない。


雨に浮かれて、家に置いてきてしまった。




わたしは、生まれつき肌が弱い。


幼稚園児だった冬の日、外でみんなと遊んでいた。


ただそれだけなのに、肌は真っ赤に日焼けし、針でつつかれるような感覚が全身を襲った。


その日は、早退した。


そして、その日から晴れの日は外に出られなくなった。


めちゃくちゃ強い日焼け止めを塗らないと外に出られることはなくなった。


お陰で体育は、皆が外でしている間、わたしはいつも先生と二人きりだった。


遠足の日も、運動会も、あまつさえ修学旅行まで、わたしは付き添いの先生と二人だけで行動することになった。


だけど、雨の日は違う。雨の日はみんなと一緒にいられた。


だからわたしは、雨の日が好きだ。


さっきまで使ってた傘は、ビニール傘。

全く役に立たない。


夜になるまで待たないと帰れないかもと途方に暮れていると、日が傾いてきて、わたしの日影が脅かされ始めた。


わたしは、恐る恐る手を日光に当てる。


手が槍で貫かれるような感覚が、わたしを襲った。


やっぱり、太陽の下に出るのは危険だ。


「すみませーん!誰か、助けてくださーい。」


苦しみ紛れに叫ぶも、誰も助けに来てくれない。それどころか、わたしを見て笑う。


「何があったんすか?」


そんな中、大きいリュックを背負った短髪の子が、わたしに声を掛けてくれた。


ゆったりと穏やかな可愛らしい声。


わたしは、日光に弱いことを説明すると、日焼け止めと厚めのコートを貸してくれた。


「ありがとう。こんなに色々貸して貰って。あと、家に来てくれません?お礼をしないとといけませんから」


短髪の子は、頷いてくれた。


日焼け止めを塗っていても、ちくちくというとんがった物でつつかれるような感覚がする。


それでもわたしが、家に帰るために歩き出すと、短髪の子は、私と太陽を遮るように歩いてくれる。


「その大きなリュックは、何が入っているんですか?」


私が尋ねると、短髪の子は顔を赤らめて言った。


「オレ、実は登山をやっているんす。周りのみんなからは、女子が登山なんかー、なんて言われちゃうんすけど」


「いいじゃない、わたしも一度くらい登山してみたいなあ」


「山の頂上は、ここよりももっと太陽に近いし、紫外線も強いすよ。死んじゃうすよ〜!」


なんて冗談を交わしながら家まで無事に到着した。


わたしは、お礼として彼女にお菓子を振舞ったあと、メアドを交換して別れることになった。


わたしが手を振ると、彼女は、真っ赤な夕日に包まれながら、手を振り返してくれた。





ほんの少しだけ、本当に少しだけだけど、晴れの日が嫌いじゃなくなった一日だった。

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