第9話 人間とオーク

 ペドロ達はオーククラン『百鬼夜行』の本陣に降り立った。


「ウマだ」「ヒトだ」「オンナだ」


 成人男性より大きな緑色のオーク達が二人の周囲を囲みはじめた。シェリーはすぐにペドロから降りて刺突剣スティレットを手に魔法陣を描き始めた。

 魔力の無い者からは刺突剣スティレットを手に踊っている様にしか見えず、オーク達は慌てる様子も無い。


「何だ、騒々しいぞ」


 騒ぎを聞きつけ天幕から一際巨大なオークが現れる。

 毛髪の無い頭には人間サイズの王冠を乗せていた。


「オヤカタ、ソラからオンナが」


「空からだぁ?」


 他のオークと違い言葉が聞き取りやすい。

 オヤカタと言われている辺り、別格の存在なのだろう。


「おいおい、物騒な女だな。

 これだから人間…ん?人間か?エルフじゃないだろうな。

 お前たちと変わらない身長じゃないか、もしくはお前たちが小さいのか。

 ガハハハハ!」


「オヤカタ、オンナがデカいだけ」


「オヤカタ、オンナの耳、トガッてない」


「よく観察してるじゃないか、流石は俺様の部下だ!ガハハハ!」

 

 オーク。

 緑色の身体で足が短く手が長い種族。

 人間より発達した筋肉質な身体が特徴で凶悪な外見から人間種より嫌われている。

 人間のように言語を話し、道具を用いるが知恵は個体差で大きく分かれる。

 兵種は大半が斧兵だが、稀に騎兵や弓兵、魔法を使う者もいる侮れない種族。

 

 目の前にいるオヤカタと呼ばれたオークからは特に知性が感じられ警戒する。


「シェリー、どう?」


「精霊さん疲れてる…」


「ブルるるるる!」


「…斧12、弓3、槍2…オヤカタ1。これを抜けてもその先は大群、騎兵もいるよ」


 フィノはペドロの上に立ち周囲の情報を伝える。


「お、小さい女もいるな。

 こいつは人間に違いなさそうだぞ。

 ガハハハ!おい、女!どこから来た!」


 オヤカタと言われた巨大なオークは腰に下げていた巨大な剣をシェリーに向ける。その剣は平均的なオーク程のサイズをしている分厚い鉄板という言葉が似合いそうな両刃の剣だ。


「今朝もこんな事があったね」


 フィノは音も無くシェリーの後ろに移動し、オーク達に聞えないようにささやいた。シェリーもそれに返す。


「あの時とは話が違うよ。

 人間100人に囲まれる方が楽じゃない?オークだと奥の手使えないし」

「そうなんだよね…」


 オークは人間と美的感覚が違う。

 シェリーの身体で魅了して隙をつく事はできないだろう。


「女!俺様を無視するとは良い度胸だな?」

「失礼しました。

 巨大な剣を構える姿がとても勇壮で、種族は違えど見惚れてしまったのです。

 ひょっとして貴方が百鬼夜行を統べているのですか?」


 シェリーは声を大にしながらフィノに目配せする。


「ガハハハ!

 女、人間のくせになかなか面白い事を言うな!

 俺様は百鬼夜行頭領の右腕、バンプだ!

 頭領のフトウ様は俺様などよりさらに素晴らしいお方だぞ!ガハハハ!」


「サスがオヤカタ」「サスが」「オヤカタ!」


「ガハハハ!女、もう一度問う。どこから来た?」


 余裕を見せつけるオーク達の言動は人間の女を明らかに下等な生物だと侮っている。


「私はオークスレイヤーを探してここに来ました」


 周囲は突如として殺気立ち、それまでの雰囲気は一変する。


「何ぃ!?オークスレイヤーだと!?

 女!!何を言ってるのか分かっているのか!?」


 オークスレイヤーの名を出したシェリーはオーク達から視線の集中砲火をあびる。


 周囲の視線はシェリーひとりに向けられた。


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