第55話 魔力譲渡
俺がアイリーン達の所に近付くと、戦闘の事後処理が行われており、ニーナが怪我人の治療に忙殺されているのが見て取れる。
他にも奴隷の中に治癒が可能な者がいたらしく、ニーナと2人して治療に当たっていた。
ここにいる奴隷達は皆首輪をしている。
俺はニーナの近くに降りて、肩から男を降ろした。
アイリーンが俺を見ると泣きながら駆け寄ってきた。
「良かった!レオンが戻って来た!何処かに行っちゃったから心配したんですからね!」
抱き着いてきたアイリーンの頭を撫でつつ、ニーナに向き合った。
「ああ。心配掛けて悪かったね。後顧の憂いを断ちに行ったんだけど、大した事無かったよ。この賊を率いていたお目付け役をぺったんこさんしてきただけだよ。えっとニーナ、此奴を治療できるか?お目付け役の唯一の生き残りだ。全快で無くても良い。話が出来さえすればな」
ニーナは治療を終え、そいつの所に向かおうとして立ち上がったが、ふらついた。俺は咄嗟に腰に手を回して抱き寄せる形で倒れるのを防ぐ。
「レオン!ニーナさんは治療で魔力を使い果たしてフラフラなの!もう無理はさせない方が良いわ!」
「だ、大丈夫だぜ。後1人位は。後でご褒美が有るなら頑張れるぜ!」
更にふらつく。
「大丈夫じゃないだろ。魔力を回復する何かはないのか?」
「既に搔き集めて全部飲んださ。ほら、アタイの自慢のお腹がタプタプさ」
俺の手を剥き出しのお腹に当てる。確かに食べ過ぎのように少しポッコリしていた。なるほど、栄養ドリンク位の空の容器が大量に転がっている。
「他の怪我人は大丈夫なのか?」
奴隷商が話をしてきた。
「剣聖様のお蔭で残るは捕えた盗賊のみになります。こちらの奴隷も一緒に治療に当りましたが、魔力回復のポーションは全て使い切りました」
「ニーナ、例えば俺からニーナに魔力を譲渡出来ないのか?ギルドで魔力量は計測不能と言われたぞ」
「良いのかい?効率が物凄く悪いから普通はやらないよ」
「どうやるんだ?」
「そんなに難しい事ではないよ。手を繋いで詠唱し、魔力供給側が許可をするだけだから。レオンが辛くなったら手を離せば終わるぞ。でもね、100の魔力を流しても1の魔力しか相手に譲渡できないからね。それと苦しいはずだぞ」
俺は躊躇なくニーナの手を握る。
「問題ない。とっとと始めてくれ!」
ニーナは頷く。
「神羅万丈の理に願う。この者より我に力を注がん事を求む。シナジード・マナドレイン」
すると頭の中に、【魔力譲渡を許可するか Y/N】
文字が浮かんできたので、感覚的にYを思うと許可され、魔力がニーナの手に向かってグイグイ流れて行くのが分かる。
全身に苦痛が走る。俺は痛みに冷や汗をかいた。
しかし、1分程で急に痛みが引き、更に魔力の流れも止まった。そしてニーナが俺の手を離した。
「お、驚いた。アタイの魔力が全快したぞ!レオン、まだ行けるか?この奴隷の治療師にも分けてあげられないか?」
その治療師は粗末な服を着ていて、20代後半位の女性だった。まあまあ綺麗な女性だが、健康状態があまり良くなさそうで、かなり痩せている。いや、ガリガリだ。
「そんな。ご主人様にそのような事を・・・」
「あんたにはまだ治療を手伝って貰いたいから、気にせず貰いな。あんたの主の為でもあるんだぞ」
「は、はい。剣聖様がそう仰っしゃるなら」
「えっと、君の方から詠唱は行けるか?行けるなら手を掴んだら直ぐにやってくれ」
「か、畏まりましたご主人様」
俺がその女性の手を握ると、ニーナと同じように詠唱を行い、苦痛と共に魔力が流れ、30秒位で終わった。
「す、凄いです。私や剣聖様の100倍以上の魔力の持ち主だなんて、凄過ぎます!」
俺はまだまだ余裕だったが、取り敢えずこれから治療する奴の手足を縛った。
ニーナと奴隷の治療師2人で回復魔法を行使しており、程無くして瀕死の重症だったのが、命を失う危険を脱するまでに回復したのであった。
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