第37話 ニーナを弄る
アイリーンと俺は盗賊を殺した事に対し、2人だけで立ち直ろうとしていたが、そろそろとなりニーナが声を掛けてきた。
「おっほん。アタイの事を忘れていないかい?」
「ああ、見事な首チョンパだったな。ニーナって強いのな」
「惚れても良いんだぜ!」
「あのなぁ、それがなかったら惚れるかもだけど、お前もう喋るな。喋らなかったら良い女だぞ!」
ニーナはしゃがみ込んで【の】の字を書いていた。歳下の相手から歳下扱いされ、自分の名を聞いても態度が変わらない。本当に何者か?と思うが、ある意味女として見られていて、いじられているのが心地良かった。でも面と向かって残念さん扱いされると流石に凹む。
「レオンさん、めっ!ですよ。ここはニーナって、強いんだな。残念さんじゃなかったんだな。見直したよ!って言うところですよ!気持ちは分かりますが、もう少しオブラートに言わないと可哀想ですよ!」
アイリーンはニーナに聞こえている事を考えず、ある意味レオンの言った言葉よりずっしり来るような事を言ったものだから、ニーナは更に落ち込んでおり、黒いオーラを発しているような感じになっていた。
「さぁて、ニーナを弄って遊ぶのもそろそろ終わろうか。なあニーナ、剣の基本だけでも教えてくれないか?」
ニーナがパッと明るくなった。
「確かに持っているだけでロクに使えなさそうだな。アタイは厳しいぞ?」
「御手柔らかに」
「それはそうと、2人は馬に乗れるのかい?」
「私は乗った事がないです」
「全力で走った事はないけど、早足程度なら」
「速度が落ちるけど、万が一を考えるとアタイが動ける方が良いだろう?レオン、アイリーンを乗せて町に向かえそうか?」
「2人乗りは経験がないけど、前と後ろ、どちらが良いんだ?」
「後ろに乗せるとアイリーンがかなり辛くなると思う」
俺は頷くと3頭の中で1番大きい馬に跨り、アイリーンに手を差し出す。中々上手く乗れない。3度試すもアイリーンが駄目だ。
見兼ねたニーナがアイリーンの腰を掴むと一気に持ち上げた。その勢いを利用し、アイリーンを引き寄せた。抱きつく形になり、アイリーンが真っ赤になったが、取り敢えず向きを変えて横向きに座らせる事にした。
慣れていないと跨るのは辛いと聞く。俺も最初はお股が辛かったな。乗馬というが、馬に乗れるようにするのは落ち着いたらで良いだろう。今は体に掛かる負担を出来るだけ減らしたい。
ニーナがもう1頭の手綱を握り、3頭の馬と3人は街道を町へ向けて進み出した。
初めての馬にアイリーンは興奮していた。レオンはと言うと、妻がやりたいと言うので、乗馬を一緒にやっていたから、多少だが馬を扱えた。妻に感謝だ。正直な所あまり好きではなかった。妻がやりたいと言うので顔には出さないが仕方なくやっていたが、まさか実際に役に立つ日が来るとは思っていなかった。
「やっぱりレオンは凄いな。何でも出来るんですね!レオンのような彼氏が欲しいな」
「亡くなった妻が馬が好きでね。乗馬を少しかじっていたんだ。競馬も好きでね。よく観に行ったんだ。馬券は一度も買わなかったんだけどね。心配しなくてもアイリーンには俺なんかと違い、ちゃんとした優しい人が現れるさ!」
アイリーンはそれとなく、異性としてレオンを気に入っている事を伝えたつもりなのだが、またもや通じなかった。この朴念仁を、この人の亡くなった奥さんはどうやって振り向かせたのだろうか?ひょっとしてレオンから告白したのか?うん。きっとそうに違いない。それとなくとか、回りくどい事をしても駄目だ。積極的にこちらから動かなきゃ!でもニーナを見るに女の方から積極的にアプローチするのは距離を置かれてしまうから駄目ね。確か雑誌とかでは朴念仁タイプの男には、さり気ないボディータッチや、甲斐甲斐しく世話をすると心が動くとあったよね。よし、決めた!もう!レオンったらだらしないわね。私がいないと駄目なんだから!と私が言っても説得力がある位に世話をしていくわ!
そんな事をアイリーンは馬の上で考えていたが、その後は特に何もなく順調に進んでいた。
町に着いたと言うか戻ったのだが、入り口には町に入る者の列が出来ていた。
しかし、ニーナが守衛に自分のカードを見せると、守衛は畏まっていた。そして並んでいる者達を尻目に、何故か俺達は案内されたのだが、その事以外は特に何事もなく、並ぶ事もなくそのまま町に入っていった。
そして2人してニーナが特別扱いされた事に対し、へっ?となるのであった。
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