第32話 募る思い

王女が連れてきた使用人は文句を言いながら一応は王女に命じられたため孤児院の清掃や料理をしている。

「ちょっと、ルー。あんたはここの子供より薄汚いんだから私たちよりもしっかり働きなさいよ」

「っ」

背中を叩くように押された。引き取られたばかりの頃はそれで転んで怪我をしたけど流石にもう成人した女の力に負けることはないけど痛いものは痛い。

「王女殿下に気に入られているからっていい気になるんじゃないわよ、ルー」

「というか、この仕事は私たちよりもルー向きよね」

「そうね。薄汚い者同士、気が合うんじゃない。ということでここは任せたわ」

廊下の掃除道具を放り出して彼女たちは王女の元に向かった。ここで命令されたことをするよりも王女のご機嫌伺いの方が彼女たちにとっては重要なのだろう。

王宮で働く使用人は全て身元のしっかりとした者、つまり貴族だ。貴族が平民のしかも孤児の世話なんて喜んでするわけがないのにあの王女様はそういうことに頓着ない。

「ルー君、大丈夫かい?」

院長は廊下に散らばる掃除用具を見てため息をついた後、廊下のモップがけを一緒にしてくれた。

王宮から連れてきた使用人は手抜きの仕事ばかり。しかし、元々いたスタッフは王女が解雇してしまったため孤児院の仕事が回らなくなった。実質、俺と院長でやっているようなものだ。

院長にだって、院長の仕事があるだろうに。

当の王女は庭で優雅にティータイムをしている。確かに王女は運営する側なのでスタッフや使用人のように働く必要はないが、この現状をしっかりと把握している必要があるのに。

「ありがとうございます、院長。掃除用具はこちらで片付けるのでご自身のお仕事にお戻りください」

「すまないね、じゃあ後は頼むよ」

「はい」

掃除用具を片付けに行こうとしたら廊下の陰に隠れていた女公爵と目が合った。彼女は特に何か言うわけでもなく行ってしまった。きっと様子を見にきたのだろう。

王女は俺を弟だと言う。そして女公爵は俺を王女のペットだと言った。俺はまさにその通りだと思った。

王女が俺に優しくすればするほど王宮で働く使用人たちの暴力は増していった。彼ら、彼女たちは狡猾で服で隠れるところばかり集中して攻撃をする。

食事を何日も抜かれ、仕方がなく残飯を漁る日もある。スラムの生活と何が違うのだろう。

王女は俺を自分の功績を見せつけるかのようにいろんなところに連れ回す。中には俺に夜伽を命じてきた貴族夫人もいた。

王女が俺に相応の扱いをし、嫌がる俺を無理やり夜会に連れていかなければこんな屈辱を味わうこともなかったのにと何度も恨んだことがあった。きっと、王女はそんな俺の心情など夢にも思っていないだろう。

王女様は王女様でしかない。

お金に困ったことがなくて、お腹を空かせたこともない。雨に濡れることもなく、綺麗な場所で綺麗な服を着て、優雅に笑っていられる。そんな場所から見下ろされて、気まぐれに与えられる慈悲に縋るしかない惨めさなんて王女には分からない。

「・・・・・ああ、殺してしまいたいな」

「ルー」

掃除用具を片付けているとさっきまで庭でお茶を飲んでいた王女が楽しそうにやって来た。

「どうしました、王女殿下」

俺は王女が好きな俺の顔で彼女に対応する。

「実はね、さっき頼んでおいた食材が来たの。私、食材って初めて見るのよね。ジャガイモがあんなヘンテコな形をしているなんて思わなかったわ。ネギがあんなに細くて長いのも知らなかった。孤児院って面白いわね。知らないことをたくさん知れて、とても勉強になるわ」

「・・・・・それは良かったですね。来た甲斐がありました」

「ええ」

だからって女王の教育に何の役にも立たないし、女公爵様はそんなことを学んで欲しくて承諾したわけじゃないだろう。

まぁ、この王女様なら高い授業料をドブに捨てて終わるだろう。

そのお金だって血税だろうに。

足りないのなら増やせばいいって言いそうだな。簡単に増やせたら苦労しないけど、欲しいと言えば無制限に何でももらえる王女様には説明しても分からない。

お金がないという意味が。

「これで孤児の子供たちに良いものがたくさん食べさせられるわ」

貴族連中が食べる高級食材では、子供たちの胃に悪いと思うけど。

「子供たちの胃が弱っている可能性もあるので消化に良いものにした方がよろしいかと」

「そうね。今までアイリスのせいで食事も満足に摂れなかったでしょうから、満足できるまで食べさせてあげないと」

話、聞いてないね。

院長に言って医者の用意をしてもらっておこう。

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