第20話 視察の中止

『みんなが幸せな国』


王女の言葉に思わず笑ってしまいそうになった。

まるで子供の夢ではないか。

そんな国は存在しないし、そもそも戦争を仕掛けるような王がそんな国にしようと努力をしたんだと言われても信じられるはずがない。

戦争なんて真逆に位置しているじゃないか。

「とりあえず、子供たちのところに案内しますね。子供たちには普段通りにするように言ってあります」

院長が気を取り直すように案内を再開する。最初に案内されたのは子供たちの寝室だ。

「ここは?」

王女は怪訝な顔をして周囲を見真渡す。何かおかしなことでもあるだろうか。

「子供たちの寝室です」

その寝室を箒を持った子供が三人、雑巾を持った子供が四人、ゴミを集めている子供が二人いた。子供たちは寝室の掃除をしながらこちらのことが気になるのかチラチラと私たちの方を見ていた。

「これが寝室?どうしてこんなにベッドが複数あるの?」

「どうしてと言われましたも」

院長は王女の質問の意図が分からず、言葉に詰まる。私も王女の質問の意図が分からない。

「シーラ王女、一人一部屋の寝室なんて存在しない」

見かねた王太子が王女の質問に答えた。王女は目を見開き、王太子を見る。

そんなに驚くこと?

というか、待って。王女って孤児院の慰問に何度も言っているのよね。どうしてそんなことも知らないの?

「殿下、確認したいのですが普段行っている慰問ではどのようなことをなさっているんですか?」

「子供たちとお話をしたり、シャフが作ったクッキーを配ったり、後はお洋服をあげているわ」

つまり、孤児院の中を見学したことはないのか。せいぜい、院長室か全員が集まれる食堂ぐらいしか言ったことがないのか。

「服はどのようなものですか?」

「ちゃんと王都の仕立て屋に頼んで作らせているわ」

なら、王女が来る時だけその平民でも着ることがない服で着飾って王族のご機嫌取りをしていたのか。着れなくなった服は売ればお金になるし、それで孤児院の運営費に回せる。

もっとも、それは孤児院の院長が真面目で善良である場合のみだが。最悪な場合は服を売った金を着服して私腹を肥やすけど。

王都の孤児院の院長の人となりを知らないからまともな運営がされているかは分からないけど。仮にまともな運営がされていなくてもそういう院長は取り繕うのが上手く、そしてこの王女には見破る能力がない。

慰問は孤児院支援だけではなく、院長がまともな運営をしているかを確認するためにも行われているのに、慰問を行う理由をまるで理解していない。

「それより、院長。ここの子供たちが着ているものはなんですか?あのようなボロ布を纏わせるなんて、可哀想だとは思わないんですか?」

「ボロ布、ですか。確かに下の子はお古を着るのでだいぶくたびれていますが、でも」

「他人が着せたものを着せるのですかっ!そんな横暴が許されるとでも」

「殿下、落ち着いてください」

王族に詰問されては平民の院長が萎縮してしまう。ここの院長はあまり気の強い方ではないから余計に。それに子供たちも掃除の手を止めて不安そうにこちらを見ている。

まさか王女がここまで世間知らずだったなんて予想外だ。孤児院や救護院の慰問をしているとかもう言わないでほしい。他国の王太子の前でこの世間知らずぶりは恥ずかしすぎる。

「院長、すみません。今日の視察は中止をさせていただきます。お騒がせしてすみません」

「い、いいえ、領主様。申し訳ありません。上手くできなくて」

院長は何も悪くはない。

私が王女の世間知らずぶりを把握できなかった。私のミスだ。

「アイリス、中止とはどういうこと。旗色が悪くなったからといって隠しても私は見逃しませんからね」

頼むからもう黙ってくれ。

「殿下、子供たちの前です。一旦外に出ましょう。殿下だって子供を不安がらせたいわけじゃないでしょう」

私がそう言うと王女は不安そうにこちらを見ている子供に気づいた王女は渋々だけど私の指示に従ってくれた。

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