第5話 罰

「アイリス・ルーエンブルク卿、貴殿は戦時下に置いて女の身でありながら国の為に尽力した。その功績を讃え、公爵位を授ける」

帰る家はなく、再建する気力もなく叔母の邸で過ごしていたら王宮から使いが来た。今の私に対応は難しいと判断した叔母が対応してくれた。

言われるまま正装して王宮に行くと戦場に行く前と同じようにたくさんの人がいた。そこで王と謁見し、戦場での功績を讃えられた。

六年も戦場にいればそれなりに功績を残しているので当然と言えば当然なのかもしれない。

私は王より与えられた勲章に視線を落とす。

これが人殺しに与えられた罰なのだろうか。どうせなら私も殺してくれればいいのに。

人を殺して誉められるなんて、おかしくなりそうだ。

「光栄です、陛下。その地位に恥じぬよう精進します」

「後で報奨金を渡す。それを領地再建に役立ててくれ」

「はい。ありがとうございます」

戦争は敗北までいかなかったが、ぎりぎりだっただろう。それでも多少は満足のいく結果だったからこうやって参戦したものに褒章が与えられる。

人を雇って参戦さてた者には雇用主に。雇用された者は雇用主から何かしらの褒章が与えられるはずだ。

王との謁見を終え、宰相補佐と報奨金受け取りの手続きをして王宮を出た。

提示された金額に視線を落とす。

これが、王宮が決めたルーエンブルク領民と私の家族に値する金額。人の命はこうやって簡単に金額に換算できる程安いものなのだと突きつけられているみたいだ。

「・・・・領地再建か」

簡単に言ってくれる。

砲撃の後、焼け野原となった草原、散り散りになった領民、これを全て元通りにするには時間もお金もかかる。時間に関してはそれこそ年単位になるだろう。

「誰もいないのに」

それでも領主として領民が帰って来れるようにしなくてはならない。公爵位を賜ったと同時に女公爵になったのだからその責任を果たさなくてはならない。

責任を全部果たしたらもう生きなくてもいいのだろうか。いつまで責任を果たし続けなくてはならないのだろうか。


◇◇◇


『人殺しっ!一体どれくらい私たちの生活を壊したら気がすむのよっ!』

そう言ったのは自国民の女性だった。

敵国の兵士に殺されかけていた。私は兵士の頭を撃ち抜いて、彼女を安全な場所まで移動させようとしたら彼女は子供の亡骸を抱いて私に敵意を向けてきた。

彼女にとっては自国の兵士も敵国の兵士も同じ。自分達の生活を壊す敵だったのだ。


『助けてくれ、死にたくない』

大の男が泣きながら命乞いをしていた。私はその男の額に銃口をつけて引き金を引いた。飛び散る脳漿も充満する血臭もあんなに気持ち悪くて、体の体液を全て出しても足りないぐらいの吐き気も回数を重ねるごとに何も感じなくなった。

引き金を引く指があんなに震えていたのに、今はもう息を吸うみたいに当たり前に引ける。

自分が生きる時間が延びれば延びるほど心が殺されていった。

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