第3話
「困りましたわ・・・」
私は王都を振り返ると、遠くの高いところに王宮が見えました。両親にも会うことが許されず、そのまま直行で王都から追い出された私。私物もほとんど持つことができず、大きなバッグに詰められるだけ詰めただけでした。それも別の国へと行くにはかなり重い持ち物。気持ちも重くなってしまいます。
「申し訳ございません」
門番さんが私に深々と頭を下げてきました。
「いいのです、いいのです。お気になさらずに」
門番さんは、私が視察に行くたびに挨拶して下さり顔見知りでした。
「ただ、ひとつだけお願いが」
私は門番さんにあることをお願いをしました。
「そんなことでしたら、もちろんです」
門番さんは二つ返事で了承してくださいました。さて・・・この後は、
「ヴィクトリア王妃じゃございませんか?」
ウマの蹄の音と気さくな青年の声が聞こえました。
「あら、ノートンさんじゃないですか?」
行商人のノートンさんが馬車で門の中からやってきました。市場調査の関係で何度か行商人の方々の積荷をチェックしたり、他国の情勢などを情報を教えていただいておりましたが、ノートンさんの積荷は適正かつ評判の良い物が多く、加えていただける情報はとても我が国にとってとても有益なものばかりでした。ノートンさんは信頼できる方だったので、私は事情を話しました。
「それは・・・・・・ですね。心中お察しします。もしよろしければ、お乗りになりますか?」
「よろしいのですか?」
「ええ、もちろん」
ノートンさんは笑顔で私を馬車に乗せてくださいました。そんなわけでノートンさんにお世話になることになりました。ノートンさんは自国へ帰り、自分の家に泊まるかと提案してくださいましたが、私はそれを断り、宿屋に泊まりました。
「失礼ですが・・・・・・女性お一人ですか?」
「ええ、そうです」
宿屋の方はとても困惑しておりました。それもそのはず、私が泊まろうとしていた宿屋は貴族御用達の場所で値段もそれなりにしますし、だいたい使用人も合わせて泊まるようなところです。それに加えて、宿屋を使うのは地元の方はほとんどいません。そうすると他国の者ということになりますが、女性一人で旅をするには、国と国の間には未開の土地が多く、山賊や獣がおり大変危険なので、ほとんどないはずです。それにノートンさんの国は少し訛りがあって、レオナード王子に卑下されましたが私も一介の貴族、加えて王妃として恥ずかしくないよう努めてきたので、公用語を正しく発音する私は目に着いたのかもしれません。
「申し訳ございませんが、料金は前払いでよろしいでしょうか?」
「もちろんです」
私は宿屋の方が受け入れてくれたので笑顔で答えました。私はお金を払い、自分の部屋へと移動しました。そのお金も母国は財政難だから質素倹約していた私はそこまで無かったですし、それで旅をしようと思っていましたが、レオナード王子に隠れて、多くの大臣が、
「少ないですが、何かの足しにしてください」
と言って、お金を渡してきてくださいました。最初はお断りしようと思いましたが、皆のお心遣いを無下にする方が失礼にあたり、加えて自分の行末もわからなかったので、ありがたくいただきました。ノートンさんの紹介と言うことで、お金もこの国のお金と両替でき、
「本当に皆には感謝ですわ」
私は暗くなった空で光る月を見ました。あの月は、きっと母国も照らしてくれているでしょう。
けれど、母国は私が出ていってすぐに陰りが出るとは、この時はまだ想像もしていませんでした。
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